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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 99 章 九十六 昭和  (レイナ)

九十六 昭和  (レイナ)

 最初に十四枚の葉書を見たとき、レイナは平成の終わりから令和にかけての未解決の事件を探そうと思った。殺人事件の復讐や顔面火傷の様な深い怨恨を、葉書の文字に感じていたのだ。風間正男と守谷保という人間がその事件に絡むはずで、レイナは彼らの名前をネット上のすべてのURLで拾い続けた。凶悪事件は大体これですぐ紐がつくはずだ。
 しかし結果は芳しくなかった。
 幾度かURLとは別のアプローチも試みたが、風間と守谷は犯罪歴なし。ネット上での誹謗中傷にも関連がなくいわゆるシロなのである。
 ただ、犯罪関連という意味で、ひとつだけ機械が提示してくる事件があるーー。
 どのデータが紐ついているのかわからないのだが、とあるかなり昔の、昭和の犯罪事件である。あくまで機械学習(ML)の結果で、風間も守谷も犯罪歴がないと一方で結論しながら、ある昭和の殺人事件に二人が関連したと言う計算結果が出る。調べると、その事件には別の犯罪者らがいて、彼らはとうの昔に逮捕され懲役も確定し刑務所に収監されている。どう調べても守谷や風間に関係しないのである。
 昭和の事件。
 昭和天皇が崩御した昭和最後の年の事件である。
 とある、若い女性の命が失われた。若い命を奪ったのは女性と同世代の未成年たちであり、都内の男子高校生含む未成年の少年の犯罪だった。繰り返しだが彼らは逮捕され刑務所に収監されている。もしかして何かの間違いがあるかもしれないと思い、レイナは手作業で幾度か調べ直したが、風間は大阪、守谷は北九州の高校出身で明らかに東京の下町の高校生が起こした殺人事件とは関係がない。年齢とも合致しない。
 レイナは首を傾げた。
 何か機械計算上の誤差があるのだろうか。
 昭和の事件は一度は世の中が忘れたものだったはずだ。三十年以上前、インターネットもまだなかった頃の事件であるのだが。
 あえていえば、そう言う事件が再び世の中に戻ってくることがあるーー。
 インターネットの時代になり、過去犯罪のさまざまな掲示板が乱立し、犯罪が物語として再現されるのである。残虐な事件だけでなく、犯罪の量刑などネット民が語りやすい事件はその傾向が強い。その事件は当時少年ゆえ実名報道もされなかったことと、被害者の女子高生の悲惨さに多くの言葉がネット上に未だ溢れていた。ネット民の声はおおよそ殺意にさえ満ちていて、逮捕された少年らがそれぞれ経歴から写真まで事細かくまとめられ、弾劾され続けていた。それらは今も、継続的に掲示板というなの罵詈雑言の文字列を増やし続けている。怒りこそが文字を生む、と言っても良いーー。
 機械はそれを何かしら拾ったのかもしれない。
 遠い昔の昭和の事件を、平成の終わりの事件と勘違いしたりするのだろうか。
 レイナは掲示板を漠然と追っていた。
 その時だった。
 どこかで予想をしていたテキストが視界に飛び込んできた。
 (人殺しが、いつか刑務所を出てこの世に戻ってくると思うと、ぞっとする。自分の近所に住んでいるかもしれないと思うと、最悪だ。)
 あっ、とおもった。嫌な方角から石が飛んできたような気がした。文字列はしばらくレイナの網膜に残り、目を閉じても消えない。呼吸が荒れるので、身体中の銀のピアスの冷たさをなでて、他のことを考えた。
 (人殺しは、社会に戻るな)
 辛辣な言葉を目が拾う。調査の仕事をしているだけなのに、自分の体が不自然な熱を帯びる。軽井澤さんの仕事に没頭していたはずの自分が、その言葉たちのせいで何も集中できなくなるのが判った。
 (少年Aは地元の暴力団に入ったらしい。少年B、少年Cは今、まだ綾瀬に住んでいる)
 あっ、と再び思った。レイナは自分の混乱が異常になる理由がわかった。
 少年Aーー。
 未成年の犯罪ーー。
 それは自分がパソコンを始め、施設の中で自分の名前を探しはじめたあの頃と重なった。施設にいたあの頃。少女Aと名付けられた犯罪者をパソコンの中で調べ続けたあの頃ーー。

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