八十五 自問自答 (守谷保)
殺順
逃亡者殺ス
傍観者殺ス
仲間ヲ私刑許ス
仲間ヲ殺ス許ス
一体誰だ?
自分に問いかける。
一体誰だ。
こんなことをするのは。
思い出したくない。
強くそう思う。
自分たち四人は過去に罪を犯した。
随分有名な犯罪だったはずだ。
俺は思い出したくないのだ。
その言葉さえ。
そもそも違う。
そもそも違うのだ。
四人が犯罪者としてまとめられたが。
四人で、一緒に殺すことなどできない。
全員が平等などない。
四人には濃淡がある。
一番罪深いやつと、そうでない自分とは違う。
それなのに世の中は「一緒」にしやがった。
俺は、巻き込まれたんだ。
まだ若かった。
未成年で何も知らなかった。
未成年は捕まらないと言う話だった、じゃないか?
みんなそう話していたじゃないか。
未成年は捕まらないんだって。
すぐに少年院からも出れるんだって。
だから。
だから、やったんだ。
勇気がある奴が勝ちだって。
言ってたじゃないか。
勇気があれば、上に立てるし、女も得られるって。
薬やるでもなんでも勇気がある奴が勝ちだって話だったじゃないか。
犯罪を犯すのも勇気があるかだって。
そういう勝負だったはずだ。
そう言う肝試しだった。
俺は勇気を出しただけだ。
他の奴らよりもーー。
あの部屋に行った。
俺は巻き込まれただけだ。
さらに言えば、それも受け止めた。
少なくとも俺は、刑期を終えた。
なんなんだ。
このハガキは。
俺は違う。
俺が違うって何故わからない?
俺は残りのほかの三人と、違ってる。
高校だって辞めていなかった。勉強もそこまで嫌いじゃなかった。
巻き込まれただけだ。あいつらが誘っていなければ。誘惑さえなければ。人生がここまでにならなかった。
目を閉じる。
瞼の、筋肉を使うと顔面に痛みが走る。左腕の縫い代が、痛い。ホチキスで閉じた場所が。切断された骨が。
傍観者殺スー。
その言葉の通り。
アスファルトの言葉の通りになったということか。いや、殺さなかった。つまり
仲間ヲ私刑許ス
ということなのか。
俺を恨むなんて間違っている。
葉書が来た。
二十年ぶりに葉書が来たのを俺は放置した。俺は傍観者か、逃亡者と思われてもおかしくなかっただろう。
そうして、昨日の夕方から俺は半殺しにされた。
合計五人か、はいるであろう、手足押さえつける男たちに、代わる代わる犯され、肌を焼かれ、そして殴られた。このまま続ければ殺されると言う程に。彼らはプロだ。金でなんでもするやつらだ。作業を言われた通り遂行した。
仲間ヲ殺ス許ス
このままそうなるということか。俺に腕まで切断される私刑を行い、それでもだめなら、次は誰かを殺すと言うことか。しかしーー。
しかしーー。
俺にはそれが恐怖の中心ではなかった。
俺はただ私刑されたのではない。
私刑の中に工夫があった。
俺に何かを教えようとしてくるのだ。
その教えようとする場面を俺は知っている。
記憶から消してきたその光景を、俺は知っている。
執拗に教えようとする。
まるでこの俺の忘れたいものごとを見定めて繰り返させている。
そういう執拗さだ。
私刑の間、ずっと。
煙草の火のこと。
床に擦り付けること。
そのほか全てに類似がある。
手順に暗示がある。
消した記憶の方角へ私刑の内容が向かう。
順番も手順も同じだ!
俺は、強姦された。
不気味な奴らに。
殴りつけられながら、手足を抑えられ口を塞がれ。何度も何度も。
殺されそうな恐怖の中で、棍棒で殴られながら、繰り返される。
何度も殴られ、タバコの火で焼かれた。
身動きは取れない。
奴らは一晩中それを繰り返した。
(お前がやったことだ)
その男たちがそう言った気がした。
ゾッとする声で。
その言葉を聞いたとき、自分は終いには殺されるのだと思った。
そういう恨みを晴らすための命令をうけ、こいつらは歌舞伎町にきたのだ。
確実に、だれかの命令を受けて。
明確な指示を受けて。
もう、三十年も過ぎたはずだ。
それを忘れることを許さないと。
この俺にそう言う恐怖を再度認識させよと。
人間が死んだと言う現実を、どうやって死ぬのかを厳密に忠実に再現させよと。
そうして、そのまま、死ぬまで続けると思わせろと。
できれば、本当に殺してしまってもいいのだと。
違う。
違うんだ。
俺じゃないんだ。
あんたは、恨むやつを間違えている。
自分なら、あのような、行き当たり放題の失敗をしなかったんだ。
彼女を死なせてしまう必要など、全くなかった。
馬鹿だ。
あのときの、どいつもこいつもが、馬鹿だった。
周りにいた大人たちも同じくらい、馬鹿だった。
殺順
逃亡者殺ス
傍観者殺ス
仲間ヲ私刑許ス
仲間ヲ殺ス許ス
そもそも仲間なんかじゃない。
世の中のどれくらいが中学高校の不良仲間とつるんでいる?
仲間なんかじゃない。
偶然居合わせただけだ。
よくわかんなかったんだ。
その中でもがいていただけだ。
誰かの上に立とうとしてただけだ。
三十年前、俺にはなんもなかった。
二十年前、俺は全てを失っていた。
そしてハガキが俺を追いかけてきた。
でもあの時のハガキで、ひとり死んだはずだ。
バラバラ死体になって腕だけ見つかって。
あのときはそれで、済んだはずだ。
どうしてそれなのに、また今回も、同じことをするのか。
今回俺は腕を切断された。
二十年前と同じように。
三十年前の罪のためにーー。
今回は俺が殺されるということなのか?