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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 79 章 七十六 施設の窓 (レイナ)

七十六 施設の窓 (レイナ)

 まだ施設にいた頃、レイナは施設のパソコンを内緒でいじっていた。もともとは、読書コーナーにあったパソコンの本を読んだのが始まりだ。レイナはその本を面白いと思っていた。しかし施設に何台かあったパソコンは、多くの規制でパソコンというより、ただの画面機能だけだった。簡単な日常チェックのテスト以外に何もできなかった。でもレイナは全てのボタンを一つずつ押しながら、パソコンに向かい続けた。ボタンを押すことに楽しい予感があった。大人たちは
「施設内のパソコンはただの更生者向けのページ閲覧の機能しかない」
 と考えていたから、しつこくパソコンを見るレイナを咎めたりしなかった。
 ある日職員の人が個人で閲覧したパソコンのログアウトをしないままの時があった。レイナはそのままパソコンを見て驚いた。閲覧規制が解かれたパソコンは、レイナがそれまで見ていたものとはまるで別だったのだ。施設のパソコンは高度に規制されレイナらが見る領域を限定していた。そこには殆どパソコンとは言えない、市役所の掲示板機能程度しかなかった。更生者向けの安全なプログラムだ。
 レイナはその職員のパスワードを拾い、その職員になりすましてパソコンを閲覧するようになった。更生者向けに限られていない一般世界のパソコンは無限だった。レイナは興奮した。職員の目を盗んで殆ど毎日、パソコンの中で自分の世界を広げることを始めたのである。
 節子さんが施設に来たころ、レイナは既にパソコンのバックエンドに入り込んでいた。バックエンドというのは普通の人間がパソコンを開いても見れないファイルやフォルダの集まりだ。写真やファイルと同じ形で、プログラムが並んでいる。画像を写したり、通信を管理したり、検索を動かすプログラムである。知らない人が触ると簡単にパソコンが壊れる場所で、普通は隠しフォルダになって見ることができない。
 大人たちは、レイナがロックされたパソコンをいじってるだけなら問題ないと思っていた。パソコンをしているとあの少女は落ち着いている、というレポートがあったのだ思う。実際、レイナはパソコンに向かっているときにとても静かで問題が一切なかった。もちろん、その頃には自分が閲覧した履歴はしっかり削除するようにしていたので、施設の人が実際に見ても何もわからなかったのだが。
 レイナは大人たちの想像ができないほどパソコンを使いこなしていた。パソコンの中に入りブラウザを構築さえした。本を読めなくてもパソコンの中で記事を探してプログラム言語を学んだ。パソコンはとにかく自分で動かせる。誰にも関わらずに自分で考えてコマンドを作れば勝手に動くのが面白かった。
 ただ、そういうパソコンを楽しむ作業をしながらふと、レイナは自分がどこかで、とある目的を帯びていくことがわかった。
 自分が何故、こんな施設にいるのか?
 自分は何をしたのか。
 自分に何があったのか。
 そのことも、パソコンなら調べられるのではないか?
 実は、自分の名前をいくら検索しても、一切パソコンにでなかった。今思えば、風間や守谷のリサーチをしても全く彼らの情報が出てこないことと似ていた。
 奇妙だとは思っていた。
 何か犯罪でも犯さない限り、こんな施設に入れられるわけがない。子供でも、それくらいは理解ができる。
 そもそも、両親も含め、自分は家族が誰かも知らない。会わせてもらえない。思い出せもしない。
 レイナは自分の過去を幾度となく想像したけども、いつも真っ白で何も出てこない。それでもなんとかして空想に近くなるくらい、過去を想像した。
 何かの犯罪を犯している自分。
 そのせいで少女Aとして、扱われた自分。
 実は世の中では既にたくさんの人が知ってしまっている自分の本当の名前。
 ネットにはその記事がたくさん転がっていて、施設にいる自分だけがそのことを知らない。今もきっとその記事が増幅をし続けている、そんな自分の知らない過去の重大事件。
 しかし、想像に反し、パソコンをいくら検索しても、レイナの記事はなかなか見当たらなかった。自分の名前はいくら検索してもなかった。いくらパソコンで調べても自分がここにきた本当の理由はわからなかった。
 節子さんが施設に初めて来たのは、実はそんな頃だった。

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