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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 73 章 七十  バーにて (銭谷警部補)

七十  バーにて (銭谷警部補)

 わたしの顔に書いてある何かを読み取ったのか、ニコルソンは厨房へ消えた。
 客のいないカウンターでわたしは一人になった。
 午後のうちに来ていた石原からのレポートを官製の携帯電話画面で読むことにした。読み始めるとわたしに朗らかな興奮がきた。お世辞ではなく、それはしっかりとしたものだった。まず作業量があった。様々なことを時系列で調べてあり自分なりの整理を順番に設定してあった。その上で自分の中で仮説を持っていた。仮説はひとつだけではなく二つ三つ四つとあり、そのどれもが具体的だった。ただ、隠密の捜査であることを意識してか、主語や固有名詞はことごとく省略をしているせいで用言が苦しそうだった。わたしはできるだけ早く、今日秋葉原で買った私用の方の携帯電話の番号とアドレスを教えなければならないと思った。
 ウィスキーを頬張るように味わいながら繰り返し読む。
 そこには今後、彼女自身がどう動くかがこれも具体的な主語を省きながら書かれていた。ただ省略していても、方針が具体的なのは明確だった。仕事を進める意思が明確なのである。レポートの後半はスケジュールや時間の配分の計画が書いてあった。霞ヶ関の本業との兼ね合いもうまく整理されており、早速明日から週に四回もの頻度で、早朝に動くと書いてある。主語はないが、太刀川を早朝から尾行したいという意味であろう。一人で幾度も尾行すれば顔バレするぞ、とわたしは素直に思いながら、最近わたしを襲いがちな絶望とは別の方角に明るく自意識が広がるのを感じた。
 返信で少しの御礼と、明日はよろしく頼む、と官製の電話でできる限りのメッセージをいれた。
 しばらくしてから、わたしは行けるようなら参加する、と追加で記載送付をした。実はどこかで今日、この天現寺のバーにきたのは、朝まで飲んだまま六本木に向かうつもりでもあった。
 憂鬱で途方もなく後ろ向きな場所へ向かいがちな脳をジャックダニエルと、石原の言葉が交互に堰き止めていた。
 丸氷が小さくなった頃にまた、ニコルソンが顔を出した。

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