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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 66 章 六十三 文字列  (レイナ)

六十三 文字列  (レイナ)

 レイナは、ビデオコールを降りた後にスクリプトを書き始めた。
 Macの画面に流暢な文字列が並んでいく。レイナが書いた命令文でMacが動く。ネット上にある、さまざまな物事を読み込んだり分類したりしていく。
 消印の日にちの違いがあったと米田さんが言ったが、八月六日が八枚。八月九日が、六枚と分かれただけで、御園生くんが期待した文字の並びがそこで見えるわけではなかった。御園生くんは少し落胆した声になっていた。八枚と六枚に分かれたところで、
 TEECCRON AKUAWS
 これを今すぐに手作業で文字列にする難易度は、消印の違いがあってもさほどは変わらない。
 ビデオコールから降りて、トレーラーのテーブルで温かいコーヒーを入れた。複数の人間でブレストをするのも良いが、ある程度行き詰まったあとは、会議を離れ、ゆっくり一人で考える時間がレイナは好きだった。
 気になることを調べていく。
 レイナはいくつかのアルファベット関係の暗号について調べていた。英語の参照記事をかなりの速度で読み込んでいく。レイナが気になったのは、葉書のアルファベットにCと言う文字が入っている点だ。C は日本語にはない。稀に文脈で使うこともあるけども、基本は存在しない文字だ。
 レイナはスクリプトの構造を考えながら、英語の文字列についての論文などを読み漁った。例えば、
「長い暗号を読み解く時に、
 E
 に注目する。
 何故か。
 英語では、Eの出現率が一番高いのである。
 逆にQが一番低い。地球が滅びて、石碑だけの星になった時、宇宙からの来訪者は、この星で一番使われた文字列である英語の石碑を見て、おそらく最初に考えるのは出現率になる。順番が決まっている文字列暗号の解読の基本だ。Eの位置を研究しながら、おおよそ二十六文字程のアルファベットの法則を考えていく。」
 WEB上のテキストを数秒ごとに拾い、頭に入れていく。これを繰り返しながらその領域の知識を一定のレベルまで上げる。その上で、どういうスクリプトを実行すれば効率的になるか、ということを頭の中で描くのである。
 少し読み進め調べてみるだけで、アルファベットの領域は、随分と奥深いことがわかった。
 例えばそういう文字列解析の技術はたくさんあり、ベゼネル暗号のように第二次世界大戦ころには莫大な軍事予算を使って様々な研究がされている。実はその延長が、このインターネットのセキュリティに使われているということを知る人は少ない。そしてその基本がエラトステネスという紀元前のアテネ人が見出した<素数>に絡んでいると言うことも…。
 レイナは自分が楽しい気分になっていくのがわかった。パソコンの中の参照を重ねているだけで時間が過ぎてしまう。暗号関係は軍事も諜報も全て絡むパソコンの本質でもあり参照(レファレンス)と空想(イマジネーション)を繰り返すと限界がないのだ。
 そういう楽しい気持ちを抑えてーーレイナは参照記事をMacの外枠に外した。
 軽井澤さんの憂鬱な表情が脳によぎる。
 一旦、軽井澤さんの仕事を進めなばならない。
 書き込んだスクリプトの実行を一旦開始しよう。

文字
明暗
組方向