五十五 ラジオビル(赤髪女)
入手したての薬をトイレで直ぐに仕込むと赤髪女は気持ちが落ち着いた。
背中や脳裏を歩く蛆虫たちは記憶の果てに消えている。
さっきまでの苦しみなど嘘のようだ。
五階からエスカレーターをゆっくり降りる。
ラジオを作れるらしい、よくわからない部品たちが、金属の焼けたような工場くさい不思議な香りをさせて並んでいた。
ふと、そのときだった。
どこかで見たことのある人間がエスカレーターを下から上がってきてちょうど降りる赤髪女とすれ違った。明らかにテレビで見た既視感があった。
(最近はテレビでは見ないけども誰だったか。確か一時期テレビでよく見た男だが。)
その人物が醸し出す雰囲気は普通ではなかった。直感的になにか自分と同じ匂いを赤髪女は感じた。なんだろう。まさか、同じ五階のあの場所に取引に行くのだろうか。赤髪女はあの場所で同じように取引するかも知れない他の人間に初めてこのビルで出会ったような気がした。そういう確信があるような横顔がエスカレーターを上がって行った。
それだけではない。
何故か、その男と、どこかで会話をしたことがあるような気がしたのである。
なぜだろう。テレビでしか見たことない人間なのに、何故か親近感と言うか、すでに<いつも>会話をしている相手のような邂逅があった。もしくは<幾度も>この男と自分が会話をして、気持ちが触れ合っているかのような感触があった。
赤髪女には自分に生じる不思議な直感の出所がわからなかった。
今し方の、覚醒剤が上質だったのだろうか。
なぜだろう。