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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 37 章 三十四 尾行   (石原里見巡査)

三十四 尾行   (石原里見巡査)

 石原里美巡査は早朝から六本木に来ていた。昨夜、上野で銭谷警部補が
「太刀川は毎朝六時半に地下鉄に乗る」
 と言ったのが気になった。自宅のある目黒区から六本木は地下鉄日比谷線の途中駅でもある。霞ヶ関に向かう前に自分の目で、太刀川の朝の日課を確かめてみたくなったのである。
 六本木駅の改札の近くに佇むと、いとも簡単に太刀川が歩いていくのを目撃した。地下鉄日比谷線に乗るのに辛うじて追いつくことができ、隣の車両に滑り込んだ。太刀川は日比谷線から銀座で丸の内線に乗りかえた。変装も何もしていない石原は、遠目に太刀川を追うのが精一杯だった。どの駅で降りるかだけ把握しようという程度で尾行を続けた。そうやって、丸の内線に乗った後も駅ごとに、乗り降りの様子だけ、別の車両の扉から半身を出し遠目に視界に入れた。大手町、淡路町、お茶の水、と乗降客に太刀川は見当たらなかった。百八十センチほどの長身なのもあり、見逃しはしないだろうと思った。次の本郷三丁目駅で降りたので、石原は恐る恐る後をつけた。乗降客は他の駅に比べ少なかった。
 改札を出てすぐのところで、太刀川が立ったままでいるのがすぐ見えた。
 石原は駅にある公衆トイレの女性入り口に無理やり身体を隠した。太刀川は何やら、改札を出た場所で壁の方を見ている。そうしてしばらくしてから、もう一度顔を出すと、もういなかった。急いで駅を出ると、商店街を歩く太刀川の背中が見えた。まだ朝も早い商店街は、喫茶店や古本屋などが空いてる程度だった。石原は無理せず遠巻きに尾行を試みた。太刀川は東大医学部の方に向かった。東大病院の南側に位置する春日通をゆっくりと上野の方に歩いて行ったが、あまり深追いは危険だと思っているうちに見失った。
 駅に戻って、太刀川が見つめていた場所を確認すると、そこには古本置場があった。
 (古本を見ていたのだろうか)
 時計を見やると、既に霞ヶ関に戻るべき時間だった。石原は尾行をそこまでにし、地下鉄丸の内線で霞ヶ関まで戻り、捜査一課のある六階に定刻前に登庁した。

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