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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 29 章 二十六 アメ横問答  (石原里見巡査)

二十六 アメ横問答  (石原里見巡査)

「御徒町のパンダの前で」
 というメッセージが銭谷警部補から入っていた。
 不思議な人だと思う。
 仕事の鬼と呼ばれ、捜査一課のエースで実績も誰よりもある。メディアでもかなり注目された大事件捜査の中心的役割をいくつもこなしてきている。そこには、ほとんどの若手がまだ学生の頃にテレビで見た事件も多い。それでいて、そう言う過去の実績を説明する言葉を器用に持っていないように感じる。多くの刑事は自分の過去の手柄を語るけれども、銭谷警部補にはまずそれがない、と石原は感じた。
 剛腕ゆえのパワハラ、というがそういう空気も少しも見えない。何かに威張り散らす種類の人間を石原里美は想像していたが、どう見ても相容れない気がする。とりわけ実際に銭谷本人と話してからの石原の印象はそうだった。
 今、待ち合わせを霞ヶ関から距離を置いてくれたのは石原としてもありがたかった。
 御徒町のパンダ
 は、駅を降りてすぐに誰に聞いても簡単にたどり着くくらい明確な場所で、待ち合わせに適していた。上野という街が、パンダに強く連動した過去があるのはネットで少し後追いした。石原は御徒町のパンダに五分も前に着いた。銭谷警部補は既に到着していた。
 特に立ち話することもなく、銭谷警部補は小さく頷くと、無愛想に先に歩き始めた。横断歩道を渡る時にも、石原が後ろについてきてるのかも確認もせず、アメ横の混雑をまるで人がいないかのような速度で歩いていく警部補は、お世辞でも女性の誘導が得意とは言い難かった。ふと、仕事の鬼は独身、という言葉が石原には思い出された。
 二つくらい角を過ぎたところでガード下の道に入った。上を山手線や京浜東北線などが走るガードの下にレンガ作りの旧式の構造があった。その地下を勝手に掘ったような入口があり、奥に、赤提灯で「ホッピー」という文字が揺れていた。

文字
明暗
組方向