二十五 パソコンと変装(レイナ)
自分を救ったのはパソコンと変装だったとレイナは思う。この二つは似ていた。パソコンは名前を隠せる。それは変装の一種だ。進化の中で次々と手法を深めた。顔も肩書きも確認がどんどん難しくなっていく。
一つの人格で生きることと違って何らかの解放がそこにあった。世の中が停滞していてもその解放だけは、世界中に広がっていくのがわかった。
「新しい自分でいいのよ。レイナさん、あなたには才能があるから。」
その言葉が今も響いている。鬱屈として壁の隅っこで一人で体育座りで朝から晩までを過ごしていた頃の自分とは違う。言葉を脳に通わせずに、怯えた動物のように震えたまま時間を過ごしていた頃とは。
パソコンは不思議だった。
学校みたいな先生がいない。
どこまでも窓に文字を打ち込み続ければ、答えがどこまでも続いていく。でも打ち込まなければ、何も言ってこない。
線路は続くよ
どこまでも
現実では、線路はどこまでも続かない。それより先には行ってはダメだって大人がいう。永遠は嘘だし絵本の線路にも必ず、ページの終わりが来る。
パソコンは違う。
終わりがない。
本当に終わりのない線路だって作れる。
永遠だ。
永遠に時の流れの中で、無限に、宇宙のはじから反対の宇宙の先まで、繋がっていくくらいに、限界がない。終わりがない。全てのWEBページを見終わっても、まだ今、新しいページが生まれ続けている。そして、どこまでも、いつまでも繋がっている。
「そういう風に考えるってことは、あなたには才能があるのよ。」
またその人の言葉が耳に届いている。
パソコンにはもう一つ特徴があった。
全てが解決されていた。
自分で自分の名前をつけることが「基本」だった。そうしてその名前も、ある程度すると、変えることもできるし、更には複数持てるのだ。全て自由だ。最初から誰かに変装して生きることもできる。
自由な名前で作った、自由自在のスクリプト構文が、動き出す。自分が作ったものが世界中で、テクノロジーの部品になって動き続ける。誰にも実際には会わず、スクリプトだけをパソコンに打ち込んでいるのが一番いい。そうしてそれらの言葉たちが、最大限に能力を発揮して、レイナのために動き出してくれる。寝ている時も他のことを考えている時も、スクリプトは自動で作業をしてくれる。
レイナはその束にまた新しい技術を試し始める。テクノロジーの寿命はどんどん短くなっているから、その生まれては消えるサイクルは瞬間的になっている。
「あなたには才能があるのよ」
その言葉が音符のようにレイナの耳に流れていた。