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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 247 章 実験番号  TFU43245

実験番号  TFU43245

 行方不明という定義は難しいのを僕は知った。純粋な家出を大騒ぎしていたり、また家庭の環境によって家を出ている人間もいる、というのが表向きな理由だった。誘拐や監禁は曖昧にそこに混ざっていた。捜索願いは、曖昧に処理される。警察は事件になってからでないと動かないのだと、やがて僕は知るに至る。行方不明は事件ではないのだ。犯罪による誘拐だといっても本人の意思による家出であることが圧倒的に多い。だから動けない、というのだ。
 進学校の三年の冬は高校は午前で終わりになるため、午後の最初に交番や警察署に行くことにした。最初は埼玉県警だった。僕はこの時警察というものが恐ろしい地域主義になっていることも知るに至る。そのせいで何も進まない。世の中は、元素配列のような明快な論理はなく、恐ろしい矛盾論理で動いていた。何を話しても恐ろしく非論理で馬鹿げていた。相手にならなかった。挙句、都内の事件を埼玉で扱うのは難しいと言った。県境で誘拐された時などどっちが捜査するかなどは、正しく無責任の極みだった。結果、都内の警視庁の警察に行った。ただそこでも似たようなものだった。
 警察署の後、僕はいつもの喫茶店に戻り勉強をした。彼女がいつかここに来るだろうということを信じて、僕は黙々と勉強した。数学や物理の難しい問題に集中していれば、気が付かないうちにまた彼女が目の前に立っている。そう信じて勉学に集中させた。勿論、
「大学に行ったら、一緒に。」
 という彼女の言葉が、その勉強の時間にどんなに支えになったかはわからない。
 しかしいつになっても、彼女は来なかった。
 警察は動かないままだった。
 僕はその後幾度も相談したが、立場論でしか対応しない警察を信じられなくなった。
 だから、彼女を取り戻すためにブルーに潜入すると決めた。
 大学入試センター試験が終わり次は東大の二次試験だった。詰め込み型のセンター試験が課題だった僕は少し楽になった。自己採点の結果は悪くなかった。合格をして、彼女に報告する夢が束の間の現実の色をした。
 ただ肝心の彼女については変わらず行方不明のままだった。僕は山田の紹介の店で服装を揃え、強い整髪料で髪型を変えて綾瀬駅のゲームセンターの奥に屯しているブルーの仲間に入った。背が高く、スポーツをずっとしていたため僕にはだいぶ筋力があった。体は強かった。この世界ではそういう部分は加点のようだった。
 二次試験の問題集をカバンの奥底に隠したまま、毎日一番早く綾瀬駅の屯所に顔を出した。進学校は午前で授業は終わりだったから学校を中退したという嘘はバレなかった。午前に学校で勉強して勉強の集中力のちょうど切れる午後の最初をブルーへの初期潜入に当てた。勉強の息抜きだった。夕方三時前には、バイトだと言い訳をしてすぐに彼女を待つ喫茶店に向かった。勉強に集中できなかったり、彼女のことが頭に消えない時、週に二回くらい夜遅くにまたゲームセンターに戻ったりもした。それもブルーの屯所に顔を出すためだけ。まず一週間はそうやって顔を出すことだけに努めた。山田はいろいろな紹介をしてくれて、ブルーの中の顔見知りだけは増えた。
 僕はその時は、彼女がどこかの暴走族構成員の家に監禁されていると思っていた。奴らの会話を注意深く聞いていると、そういう噂話はあったのだ。というのも、若者が部活も勉強もせずに集まって話すのは、過去の喧嘩の話と、女の子の話くらいしかなかったから。殆どがそういう、悪事の噂とそれを行うブルーの権力についての自慢話の伝聞だった。それをふかした煙草で繰り返すくらいだった。
 もちろん、最初は暴走族がどんな組織なのか気になった。だが誰も暴走行為をするわけでもない。オートバイの金額が無理なのでスクーターを使っている人間が多い。一部の金持ちの人間や高校中退で働いているような人間がバイクを買って、人に自慢をすることもあったが、基本は屯するだけである。学校に行っても勉強しない人間が休み時間に集まるのと基本は似ていた。
 とにかく、彼らは何もしないというより、することがないのだ。夜になってカツアゲと女探しをしにいく。それらはブルーという名前を出して行う。その看板を使う雰囲気は、僕には人間として耐えがたかった。弱虫が看板で強くなるわけがないけども、人間にはそういう看板効果があるらしい。
 ブルーの人間全員が好きになれなかったせいで、逆に開き直って誠実な芝居を続けることができた。話をして仲良くしようとか相手を友達にしようという意識がない場合、むしろその人間関係で強く交流ができるのかもしれない。ただ情報をとる目的のためだけの、命懸けのスパイのような気持ちだった。
 ある日、
「川田木はバイトばっかだな。」
 幹部、といってもカツアゲ高値を上納金にするのが上手なだけのHがそう言った。上層部が気にしてる、みたいなことを言っていた。よく聞くととある抗争があるから参加してほしいらしい。
「二十六日で終わりますんで。急に辞められなくて。」
「そこからは毎日いられるのか。」
「はい。喧嘩でもカツアゲでもなんでも大丈夫です。やりますよ、なんでも。」
 ぼくは山田より上背もあり、そういう言葉には強い芝居ができた。その芝居のほとんどは僕は強く最初から命懸けだったから逆に迫力があったのだと思う。Hという幹部は頷いた。
「二十六日からが楽しみだな」
 二十六日は東大の二次試験の日程だった。この日を終えれば、もう勉強の必要は無くなるので、彼女の捜索に全ての時間をかけられると思った。探してあげること、見つけてあげることが叶わず、かつ勉強の片手間になっていることに焦りがあった。が、警察もだめ、どこの大人を頼っても誰も役に立たない。一日かけても呆然としているだけになる。ブルーの人間の信頼を得て、監禁の場所の情報を引き出すのが先決だった。焦ってはいけない。ここで焦れば、彼らは言葉を選び始めるというのもわかっていた。

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