← 目次へ
星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
第246章をXでシェア
第 246 章 実験番号 ASY90045

実験番号 ASY90045

 二週間が経っても、彼女は現れなかった。
 直感で、暴走族の奴らが関わっていると思えた。
 河川敷にいたスクーターの奴らを思い出した。僕は高校の生活科の担当の人に会いにいき、教えてもらった。直感は正しい可能性があった。暴走族の犯罪は凄まじかった。報道されていないものでも相当なものがあった。受験勉強をして深夜に塾から帰る高校生が意味もなく襲撃されることもあった。ただ、男性の被害はそうでもない。女性が問題だった。襲撃には誘拐や、強姦事件がいくつかあったのだ。
「こんなことが、許されるのですか?」
「警察もずっと放置気味だったが流石にまずいと言っているようです。」
「そうなのですか」
「ほら今、警察も大変でしょう。」
「大変?」
「まあ、警備する場所が沢山あるから。綾瀬あたりが一番良くないみたいですね。」
 僕はぞっとした。
「綾瀬でなにが?」
「暴走族のグループで一番大きなものが綾瀬なんですよ。本部があるんです。」
「本部?」
 僕は、山田の言っていた、ブルーというグループ名を思い出した。僕は居ても立っても居られず動き始めた。綾瀬の駅に山田を探しに行った。山田はそこが根城になってるのだという風情でゲームセンターの前に立っていた。
「どうしたんだよ、かわちゃん。」
「ちょっとね。」
 僕は彼女のことは言わなかった。勿論最初は山田のことも信じてはいなかったからだ。
「ちょっと興味あるんだ」
「ブルーに?進学校で?本気で言ってるのかい?」
「学校は関係ないだろう」
 近くの喫茶店に入ると、僕は暴走族がどういうものがあり、どういう場所で行動しているのか?などを質問した。山田は、そんな質問をされるのが嬉しいのか、少し居丈高に答えた
「ブルーが一番最強だよ。レッドとかブラックとかあるんだけどね。」
 山田は、今の自分の生活にさほど満足はしていないにもかかわらず、暴走族の群れに入ったことや、自分がブルーにいることが一応は自慢のようだった。
「結構でかい組織だから。」
「どれくらい?か。」
「まあ三百はいるぜ」
「三百人?」
 ほとんど学校単位で暴走族だということになる。
「若い奴は中学から。上はまあ、二十歳でブルーは引退。」
「引退なんてあるのか。」
「序列があるんだよ。」
「序列?」
「喧嘩の強さとか、頭の良さとかで、リーダーになれるやつが選ばれて、それで上に上がっていくんだ。まあ、部活みたいなものさ。新人は草むしり。キャプテンが一番偉い。」
「部活か」
 僕はぼんやり聞いていた。部活はそんなに楽じゃないぞと思ったが言わなかった。綾瀬の駅前の南口は喫茶店やゲームセンターが鬱蒼としていて、この南口前でカツアゲをしてる奴は実は暴走族では末端だった。末端でも金をあつめたりすると「出世」するらしい。くだらないというか、話を聞いているだけで気分が悪かった。そして一度でもそれを恐れもした自分を情けなく思った。
「ほかには?」
「他って金の他に出世する方法かい?」
「ああ」
「あるよ。」
「……。」
「女だよ。女を手配すると評価はかなり上がる」
 僕は背筋が凍りついた。
「で、かわちゃんも入りたいのか?」
「…まあ、そんなとこだな。」
 僕は会話の中ですでに覚悟していた。すると、山田は、
「まずは、その格好から変えないとだな。いかにも進学校っぽい。」
 僕は少なくとも持っている洋服で一番ふさわしそうなものを着ていたつもりだったが、それでもダメらしい。
「そういう店を紹介してもいいぜ。またコーヒーご馳走になるけどな。」
「わかった。来週用事が終わるからその後に頼む」
「なんだよ用事って」
「まあ、またいうよ」
 僕はそれが大学入試センター試験だとは言わなかった。

文字
明暗
組方向