実験番号 HSC88008
僕は恋をしていた。自分とはまるで違う、それでいて小学生の頃から恋慕してきたものがそこにあるだけで全てが感動的でありがたかったのだ。
「だいぶ日が短くなったね。」
僕らは喫茶店にカバンを置いたまま、河川敷を歩くようになった。他に客がまばらだったのもあり、店員は常連になっている僕を許した。
ほとんどは僕が口下手で、女性をリードして話すことなどできなかった、無言で歩くばかりだった。それでも僕らは少しずついろいろな会話をした。並んで歩く時の方が言葉が出やすかった。何を会話しても、会話ができていなくても僕はどこかで探していた記憶を遡る幸福の中にあった。実はあなたを探しつづけたのだとは言わずに、脳裏に都度咲く花束のような喜びを楽しんだ。