実験番号 HSC87008
とある日に、不良のグループがヘルメットもせずスクーターで複数台群れを成して河原を走っていた。その腕には刺青があった。目は明らかに攻撃的な様子だった。
僕は目を逸らした。
胸の鼓動が高鳴るのがわかった。
彼らは蛇のような目線で、目が合うと喧嘩をふっかける。
綾瀬の南口では財布を取られた同級生の話を聞いたこともある。その同級生は交番を頼ったが結局財布は取り返せなかったらしい。
不良たちが、世の中で大きな顔をしていた。相手をすればどこまで何をされるかわからない。彼らもその恐怖感情を利用して、恐怖を看板に商店街やゲームセンターを根城にしていた。
あるとき僕は彼女といる時、奴らが向かってきたら守れるのか不安に思った。幸い、そういう場面はなかったけども想像をしただけで僕は不良たちに強く憎しみを持った。それはどこかで勉強に没頭してる自分が暴力能力として弱いことの反作用だった。奴らが動物的には勝者のように思わされる風潮さえある。それは嫌なことだった。
高校で、そういう不良少年が都内の各所で犯罪をしているという説明を聞いた。都内の取り締まりが厳しくなったせいか、埼玉や千葉に遠征したりするとも聞いた。まさにその翌日明らかに不良の人間たちがヘルメットもせずスクーターで埼玉の河川敷を走った。僕が彼女と待ち合わせる喫茶店と目と鼻の先だった。かれらは都内の暴走族なのだった。彼らは誘拐や拉致もするぞという噂さえあった。
その日は、彼女は喫茶店には来なかった。
来ないでよかったと思った。二人で河川敷を歩けば危険があると思われた。
僕の通う予備校は綾瀬駅にあったのだ。綾瀬駅はじつは南口がそういう人間の溜まり場だった。ぼくの予備校は北口だった。南口には行かないようにしていた。
あるとき、明らかに暴走族とわかる人間が近づいてきた。
「川ちゃんじゃない?」
最初僕は無視をしたが、あまりにしつこいので振り返った。
「やまだ?」
中学時代、少し仲良くしていた山田だと気がつくのに少し時間がかかった。
「おお、元気かよ、かわちゃん。久しぶりだな。」
驚いたのは山田の格好だ。どう見ても暴走族のそれだった。
「元気にしてたのかよ。」
僕は、比較的コンプレックスが多く泣き虫でサッカー部でも補欠だった山田が、なぜか、強気になって胸を張っているのが気になった。
「元気だよ。」
「川ちゃんは勉強ばっかしてたもんなあ」
まるで、勉強する人間がバカだみたいな言い方だった。そんな上からの言葉を言ったので
「急に、何か変わった?」
と冷たく言ってみた。すると
「今俺ブルーにいるんだよ。」
と、勿体ぶるように山田は言った。
「ブルー?」
「知らないのかよ。暴走族の中では一番だぜ。」
しばらくそんな上辺の会話そしてからやがて山田は白状して
「いや、俺は勉強もできないし、運動もだめで。それで、高校辞めちゃったんだ。偏差値あんなに低い学校行っても意味ないから。それでブルーに入ったんだ。拾ってもらった感じかな。」
と言った。ブルーというのはブルースペクターという暴走族の名前だった。
話すと山田はぽつりぽつりと本音を言った。自分という人間を変えたいんだと、語った。ブルーは中に入ったものの、命令とか色々あってつまんないとも言った。ただ、こういう格好をして駅で喧嘩を売ると、進学校の人間とかに強く出れるし、暇の気晴らしにもなる。カツアゲで金も儲かるんだと言った。まさに僕が高校の指導で気をつけろと言われたその対象だった。
「暴走族は、もっとモテるとおもったんだけどな」
山田はつまらなそうにそう言った。