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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 236 章 実験番号 HSC008

実験番号 HSC008

 夏が終わった。
 僕はどうしても諦めきれなくなってしまった。毎日のように夏の花火の夜の記憶が脳裏に暴れる。
 あの時、その人は女性の友達と来ていた。一度何かに微笑んだ気がした。金魚に焦ったせいで自分の視界はとても狭窄した。ただ、その視界の淵の辺りで、彼女は何か和かに笑ったような印象があった。まさかそれが僕の方を見てのことであれば、どんなに幸福だろう。恋の成就というものを僕は夢想した。これほどまでに自分を前向きに溌剌とさせる可能性を、僕は知らない。
 花火の夏のあと、最初僕はその人を想う心を中学時代と同じように前向きに変換していた。高校三年になり部活動も終え大学受験がはじまっている。再び彼女に見合う自分になろうとする努力をしなおした。そのことで自分を落ち着ける。当面の受験で最高の結果を出すことだけに集中をする。彼女に見合う自分になるのだ。
 そういう人間を前向きにさせる循環がやはり恋にはあるのだ。悪く言えば僕は自分の努力のために彼女を使ったのかもしれない。しかし、前を向いて生きることに使ったのだから、誰に文句を言われる必要もないだろう。

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