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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 219 章 四 石原巡査の説明

四 石原巡査の説明

「軽井澤さん。わたしの仮説を言います。」
 銭谷警部補はそう軽井澤氏に向かった。軽井澤氏はほとんど今までと態度を変えずに、銭谷警部補を無視の状態のまま耳だけを傾けているかどうかさえ曖昧なままだった。
「刑事をやってると、よく起こることだから、わたしの仮説、というのは思い込みと思ってくれればいいです。」
「……。」
「まず最初に、軽井澤さん。この葉書ですが、心当たりありますよね。ドラム缶の中に落ちていました。宛先は都内A署管轄の綾瀬在住の尾嵜さんという人です。合計十四枚です。尾嵜さんというお名前に心当たりはありませんか?この葉書、何かの暗号ですかね。よく見ると、消印の日付が二種類ある。差出人の場所は埼玉県の八潮市です。」
 八月六日消印 O C C N E E T R
 八月九日消印 A A U W K S
 突然確信めいた口調で、そして例によって殺人を前にしてから、恐ろしいぐらい明晰で、わかりやすい言葉使いで、銭谷警部補は言葉を始めた。
「普通に見たら、全く何のことかわからない。アルファベットがこう言う風に並んでも、何を意味するのか?意味を持っているのか?含めて、送付された側は、ぽかん、として終わるのが、ほとんどだと思います。」
「……。」
「ですが、これは乱数などではない。意味のある文字になると言うことですね。まず、この枚数の少ないほうから行きましょう。六枚ですね。八月九日に六枚の葉書が送付されている。これを並べて文字列にしましょう。そうですね。これは、WAKASUと並べることができそうです。」
「!」
「つまり、これはワカスですね。若洲というとここからも近い。同じ東京湾のこの先の江東区寄りの埋立地になります。続いて消印がもっと前の、八月六日のほうについて。こちらには、Cという文字がある。これは日本語ではなくて、アルファベットだ。少し飛躍するようですが、これはCONCRETE、つまりコンクリートという意味になると思います。軽井澤さん、合ってますか?」
 軽井澤氏はその銭谷警部補の言葉に、それまでの茫漠とした捨て鉢の態度から一転、横に向けていた身体を直角に向きを変え、爆発物でも見るような眼差しで警部補を見つめた。ほとんど明確に、驚愕していた。
「なるほど。さほど間違ってはいないようですね。」
「…でも。…なぜ、、」
 軽井澤氏は驚きを隠せぬまま溺れる魚のように口を痙攣させたように震えさせた。
「いや、もう遠回りは辞めましょう。時間がないのです。今申し上げた意味の葉書が死体の隣に並んでいたのは現実なのです。これがわたしの仮説の通りに、
 CONCRETE WAKASU
 という文字列の並びだとすると、わたしのような殺人専門の刑事はこのドラム缶の中にあった死体の顔をもう一度見直してしまいます。つまり過去のとある事件を想定しながら検証し見つめ返さざるを得なかったのです。長い説明は一旦端折りましょう。
 よいですか、軽井澤さん。このドラム缶の中にいた三人は凶悪な殺人事件の加害者、つまり人間を殺した殺人犯だった。コンクリート、ワカスという言葉に紐づく、殺人者だ。」
 私石原はまるでトリックを見せられている様で、前後の文脈がわからなかった。軽井澤氏は驚きの表情をで口を開けたまま銭谷警部補を見つめていた。
「どうやら間違ってはいないようですね。」
「どうして、どうして、」
「後ほど説明しますよ。あなたがちゃんと協力をしてくれたなら、です。」
「……。」
「続いてあなたが、今時点でわたしに心を開かず、何故か自分の罪でもない殺人罪を被ろうとしている点についてです。いえいえ私も刑事を二十年以上やってます。殺人現場など嫌というほど見て参りました。どうか、何一つ誤魔化せないと思ってください。つまりわたしは、あなたが犯人でないことくらいはわかります。」
「……。」
「あなたが犯人ではないことはわかる。しかし何故、自分の罪でもない殺人について請け負うのかは、どうしても腑に落ちない。論理的に確信ができないのです。なので、ここからは私のかなり思ったままの想像で申し上げます。よいですか?まず、最初に質問させてください。」
 軽井澤氏は黙ったままというより声を失った人のようだった。驚きで開いていた口をやっと閉じた程度で、表情は驚愕を連続させたままである。
「軽井澤さん。少し唐突に申し上げます。よろしいですか?」
「……。」
 軽井澤氏は小さくほとんど確認できないくらいに頷いたかもしれない。
「唐突ですが、あなたはこの三人を殺した真犯人について本当は何も知らない。いくつかのことは関連づいていて気にはなっている。葉書のことや、もしかすれば尾嵜と言う人間、残りの二つの死体についても想像ができてはいるのだが、この三人を殺した人間が誰かという意味においては、実はむしろ想像さえつかないのではないでしょうか。」
「……。」
「いかがでしょうか?」
「……。なぜですか。」
「いやね。もし知っていれば、シンプルだからですよ。その名前をわたしに言えばいいからです。それが一番早い解決なのですから。心当たりがあればそれでもいいのです。」
「……。」
「しかしあなたはそれをしない。いやできないでいる。そうして逮捕するなら自分を逮捕してほしいとまで言っている。おかしいでしょう。つまりあなたは真犯人を知らないのではないかと思うのです。」
「……。」
「じつはこのことが重要なのです。なぜか。真犯人が判らないとーー真犯人が判らない、という現実が生じてしまうからです。真犯人がすぐに捕まってくれないとこの三人の惨殺体が埋立地でドラム缶に入って見つかったという恐ろしい事件が世の中に出てしまうからです。」
「……。」
「犯人がわからない場合どうなるか。ここまで話せば、あなたはピンときているのだと思います。わかりますよね?つまり三人の惨殺や生首という言葉が着地点の見えない暴走を起こします。つまり真犯人を探す大騒ぎが世の中で始まってしまうんですよ。そしてその大騒ぎこそ貴方は恐れているのではありませんか?」
 私石原は、音を出さないように唾を飲んだ。少し、話が逸れている気がしたが銭谷警部補は殆ど明確に論理を重ねようとしているように見える。
「つまりあなたは、自分とは関係もない殺人事件が、純粋に大騒ぎになることが途方もなく嫌なのだ。ある意味それだけの理由で、殺人犯の身代わりになろうとしているのです。これは奇妙としか言いようがない。ただ、あなたのことを整理して調べさせていただきましたが、これはもしかするとそういう理由もあって然るべきなのかもしれない。」
 銭谷警部補は淀みなく言葉を続けた。
「普通ならば非常に奇妙なことです。三人の人間が生首を含めて出島の先で死体になった。その三人をあなたは殺したと言っている。百歩譲って、自分の親族の誰かが殺人犯人で、それを匿いたいのならわかるかもしれない。だが、繰り返しですがあなたは真犯人を知らないのです。知らないが故に、途方に暮れ、そして知らない殺人犯の身代わりになろうとしている。実に奇妙にねじれている。」
「……。」
「軽井澤さん、結論を急ぎましょう。先ほどわたし銭谷は殺人が専門と申し上げましたが、この日本の全ての殺人事件について記憶す...

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