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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 201 章 百九六 セメント(軽井澤新太)

百九六 セメント(軽井澤新太)

 我々より二キロほど先の守谷を指し示す青い点が埼玉南部の、国道十六号沿いで一度止まりました。
「朝食か、何か休憩でしょうか?」
 わたくしは、信号待ちの合間にそう話しかけました。赤い髪の女性は、
「食堂やコンビニではなさそうですね。スマホのGoogleマップでも調べてみますね。」
 と答えました。体調は戻っている様子でした。
「ありがとうございます。」
「少し地図を拡大してみますね。」
 運転してる間は目を覚ました赤い髪の女性に、守谷の追跡を手伝ってもらっていました。思えば不思議な状況でした。昨日までわたくしを尾行していた人間がいま守谷を追跡する手助けをしているのです。女性は、昨夜の癲癇は何もなかったかのように静かに目覚め、一旦は落ち着いていました。
「ホームセンターですね。なんだろう。でも上手くいけばここで追いつけそう、ですね。」
 GPSの青い点が停止していた場所は国道沿いにありがちな巨大なホームセンターだとのことです。
「こんな早朝から営業をしているのですね。」
 我々はしばらくしてGPS上の青い点滅に追いつきました。国道から地図で想定していたホームセンターの入り口に滑り込みました。視界の遙か先にまだ早朝、車のない駐車場にポツンと昨夜暗闇で見た守谷の軽トラックが停まっていました。
「ん?あれはなんですかね。」
 少し近づいていくと、守谷の軽トラックには、昨夜と違い後部の荷台に青いシートが掛かってます。軽トラックの小さな荷台に青いシートで縛られて何かの物体らしき塊が設置されているのです。昨夜からの明確な変化にわたくしは強く違和感を覚えました。
「なんだろう。」
 わたくしは軽トラックに向けてマツダのキャロルをさらに近づけました。運転席に人がいないのを確認し、守谷が遠くホームセンターの建物の方まで見当たらないのを目視しながら更にゆっくりと車をすすめました。ゾッとしたのはそのときでした。青いシートで覆われた隙間に、とあるものが見えたのです。
「なんですかね?」
「ドラム缶、ですね。」
 わたくしが青いシートで覆われている物を正しく確認できたのと、赤い髪の女性が呟いたのは同時だったと思います。
「ドラム缶?」
 今度はわたくしが呟きました。そうして車をもう一度出口の近くに戻してから、重いため息をつきました。
 (軽トラックの荷台に、ドラム缶ーー。)
 このドラム缶という存在には恐ろしい来歴があるのです。ドラム缶と守谷という象徴的な組み合わせをどこかで覚悟していたものが現実に浮き出て、そのまま脳の中の冷たい恐怖がわたくしを断続的に襲っているのが判りました。
 どれくらい時間がたったか判りません。
 今度はホームセンターの入り口から車へと戻る守谷が歩いてくるのが見えました。腕がないのを目立たせないように何やら服を嵩張るように着せているのが判ります。その残された右腕の方で、何か袋のようなものを乗せた台車を転がしてきます。
「あれは何ですかね?」
「何かの袋に見えます。」
「なんだろう。」
 守谷は軽トラックの青いシートをまくると、その台車から持ち上げた袋を次々と片腕で荷台に載せていきました。
「セメントですね。コンクリートかなにかを作る粉ですね。」
 赤い髪の女性がそういう前後から、わたくしは言葉を失っていました。それはそのまま唇が冷たく凍りつくかのような恐怖でした。顔面が引き攣るのがわかりました。
「いったい何をしてるのですかね?」
 赤い髪の女性の声の横で、わたくしは、その時、十四枚の葉書のことを思っていました。そして、その葉書が、わたくしの脳裏に二つの言葉になって並んだのが判りました。八月六日分が八文字。九日分が六文字。です。
 OCCEETRN  ・・・六日消印
 AAUKSW    ・・・九日消印
 その言葉は、どこかでわたくしは想定していた。でもどこかで全部を否定して自分で見えないようにしていた、そういう記憶とも絡みました。想像したくない現実がひとつの結実としてわたくしの目の前で、堂々と真実なのだと暴れます。
 そこで女性の電話が鳴りました。
 電話でも鳴らなければ、わたくしはその場で違う行動を起こしていたかもしれませんでした。。。

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