百九三 産廃の山 (軽井澤新太)
…毎度繰り返すいつもの悪夢からわたくしは目を覚ましました。
寝落ちしたのは一瞬だと信じたかったのですが、時計を見ると朝の七時を指しています。すでに三時間ほど過ぎていました。わたくしの隣では同じように眠りに落ちたらしい赤い髪の女性が小さく寝息を立てていました。
昨夜わたくしは、助手席の赤い髪の女性と一緒にこの社用車(キャロル)でGPSの青い点を追いかけました。恐らく守谷であろう青い光点は東京を北上し埼玉に入りました。GPSが動きをようやく止めたのは、埼玉の秩父山系の山道に入ったあとのかなり奥地でした。周囲は山しかない一本道の国道に青い点がとまりました。我々はそこまで急ぎました。ようやく恐らく青い点が動きを止めた場所にたどり着き、道の先を確認すると闇の中に車があります。赤い髪の女性と相談し、減速せずそのまま横を通り過ぎました。その刹那に運転席を盗み見ましたが一瞬でそれが守谷であることがわかりました。闇の中で守谷はどうやら仮眠を取っているようでした。こんな山奥で何をしようとしているのか、ゾッとしながらもわたくしとしてはとにかく夢中でそこに起きている現実を把握しようとしておりました。
守谷の車は軽トラックでした。車上灯も消して道端に停まっておりました。我々は念の為、守谷の視界を外せるところまで車を出し、停車しました。そうしてしばらく守谷の車の周辺で動きが始まるのを待ちました。しかし車で追い越した時に見た通り運転席に守谷は眠っていたのです。そうすぐには動きはないだろうという空気が赤い髪の女性とわたくしとの間に漂いました。
おそらく、そこがその日の緊張の限界だったのだと思います。
闇に動きのない軽トラックを遠くバックミラーで見つめながら、朝まで少し待とうと話すなかでわたくしは寝落ちしてしまい、そのまま失神いたしました。そうしていつもの悪夢を繰り返したのです。
木々の間から輝く朝陽が強制的に夢を寸断してくれなければ、またいつものように昼過ぎまで布団から出れない苦しみが続いていたのかもしれません。嫌な寝汗が身体中を覆うのを手で拭うようにして、目覚めたわたくしはすぐさまバックミラーを確認しました。守谷の軽トラックが見当たりません。
わたくしは大急ぎで、車を切り返しました。
昨日間違いなく守谷が軽トラックを停めていた場所まで戻ってもやはり何もありません。
車窓から外を見やりますと、青空を遮るように深い緑の木々が鬱蒼としておりました。辺りを見回そうと、窓を開けたとたん、大自然の景色からは想像のできない異臭が激しくいたしました。少し先の森の中に巨大なゴミの山があるのがわかりました。それも自然の山ではない。銀色や白、灰色のいかにも人間じみた廃棄物のゴミが、堆(うずたか)く積み上げられ、おりからの朝陽に矛盾した銀光を返しておりました。人間がこの地球を汚すその廃棄場が目の前にありました。ちょっとやそっとの山ではありません。粗大ゴミから工場の金属部品までごちゃ混ぜにして、随分と広大に広がっているのです。
産廃物が廃墟のように積み重なっているその手前に入り口らしき門があり、おそらく守谷が昨夜軽トラックを停めていたのはまさにその場所でした。すでに守谷のトラックはありません。トラックが停まっていたあたりをよく見るとその入口の門が廃棄物の積み重ねで竜の如く背を伸ばしておりました。あたかも、錆びた銀の龍が病みながら踠き苦しみ天に向かう地獄絵図のようでした。
異臭は朝陽を受けてさらに酷く、人間さえいなければこの森はどれだけ美しくあったのかと思いつつ、わたくしは車の窓を厳密に閉めました。赤い髪の女性は薬物で嗅覚を悪くしているのか、異臭には頓着なく助手席で寝たままのようでした。
その時になってようやくわたくしは例のGPSを見ればいいことに気がつき、急いで守谷の車の位置を探しました。
この付近には既にいないようでした。しまった、と思いましたが、地図画面を指で広範囲にするとすぐに青い点がみつかりました。おそらく、少し前に出たのだと思います。青い点は元きた山道を降り埼玉県内の平野部に向けて東南に向かっているのがわかりました。
わたくしは追跡を開始すべく車をアクセル全開にしました。
その頃ようやく、赤い髪の女性の寝息が止まりました。
女性は目を覚ましたようでした。