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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 195 章 百九十 悪夢 (軽井澤新太)

百九十 悪夢 (軽井澤新太)

 わたくしは、大勢の男に監禁をされていて、部屋から出入りさえできないようにされています。そうして、全身を縛られていて身動きは取れませぬ。相手の男どもは、風間や守谷のような、凍てついた恐怖ある目だけを、目出し帽の中から覗かせています。無言で人格の見えざる複数でした。若く、まだ体力に溢れているのは体つきでも判りました。
 目出し帽の男たちは、やがて、私刑をはじめます。
 わたくしは叫びます。
 辞めてくれ、辞めてくれ。
 凄まじい力で、わたくしの身体は押さえられ身動きは取れないばかりか、不都合に動いた場所には容赦のない鉄パイプなどでの殴打が入ります。骨を打つ音と、激烈な痛みが夢でありながら全身に伝わります。吐き気がきます。ああ、もう駄目だ、意識が消えていく、というような。
 それらの悪魔の時間が続いていくうちにだんだんと最初は夢か何か冗談だと思っていた自分が、ほとんど現実にこれが行われているのだと言うふうに変換していくのか分かりました。殴られ犯されるひとつひとつそれぞれが、現実の信憑性を高めていくのでございます
 そこで、おかしいと思うのです。
 夢であるということ以上に、この場面を何故か、わたくしは何処かで見聞きして知っているのです。知っていてそれでいて何か蓋をした記憶のように脳のどこかの抽斗に片付けてあるのを知っていて閉じている。身体中を縛られ、目隠しをされると大勢の不気味な男が代わる代わる、わたくしに、タバコを押し付け、棒で殴り、服を破り、言葉では書けぬようなことをして、わたくしを凌辱していきます。
 夜が訪れ、また朝がくる。日中がくる。そしてまた夜が来る。
 食える物を食えず衰弱します。
 幾度も朝と夜が繰り返されます。
 そうして、ふと自分のことを鏡で見れることに気がつきます。
 自分が何かの力学でそちらに抜け、脱出できるような妄想を持ちます。
 窓の近くに鏡があり、うまく体を捻ればそこに、抜け出せるようなのです。まるで自分の体を置き去りにして、幽体離脱して部屋から抜け出るような感覚とも言いましょうか。
 そうして、元いた自分の身体を見つめ直し、わたくしは唖然とするのです。
 リンチを受けている人間の姿は、恐ろしいことに私では無いのでございます!
「紗千!何でお前が??」
 恐ろしいものをわたくしは見させられるので御座います。この陵辱され、私刑され続けるこの身体がよく見ると美しい少女で、さらによく見るとなにか、その遠く窓ガラスにうっすらと映るのです。窓ガラスの外には誰か、陵辱されているこの少女自身を愛して止まない誰かがいて、その人が、人間とは思えぬ形相、顔面でこちらを見ています。まるで分断した国境線の金網の向こうで、自分の娘の処刑されるのを慟哭にしがみつく、人間の父親、それが、なんと、このわたくしの顔面ではありませんか?凌辱されてたはずのわたくしの側が外にいて、わたくしの娘の紗千が私刑を受けているのです。そしてその紗千の父親であるわたくしは何も出来ずに叫んでいるのです。その阿鼻叫喚の苦悶の表情の、恐ろしさと言ったら……。
 わたくしは、あのように恐ろしい人間の顔面を見たことはございません。
 それが他ならぬこの自分自身の顔面と知りながら、恐ろしくて見ることもできないのです。
「殺すなら、この俺を殺せ!彼女を解放しろ!早くしろ、殺すなら俺を殺せ!!」
 その鬼の形相をしたわたくしは、怒鳴り続けます。夢の中のはずですが、自分でもわからない。わたくしは何もできません。ばかりか、逆に犯罪者たちは囁くのです。
「この手順にお前は覚えがあるだろう?」
 目出し帽の男達は嗤いながらそう言うのです。わたくしの過去の失策を指摘するように声をはっきりと大にして、
「こう言う事件があったのをあんたは知っていただろう?」
「……。」
「知らぬ存ぜぬではなく、第三者ではない当事者になる。そのことで、本当の理解が叶うんだよ。」
 その目出し帽の声は、わたくしにそう語るのです。黒いフェルトの中の目玉がこっちをみて、
「そうだろう?テレビで見てどこかで聞いて理解でもした気になっていたのだろう。」
「……。」
「娘を殺されたりする気持ちを取材だと?ふざけるな。お前の心の中のどうしようもない部分をおれはしっているぞ。」
「……。」
「恐ろしい人間だ。おまえは。ならば実際に、自分の娘を本当に殺されてみるのがいい。そうして初めて、貴様は理解できるだろう。この世のおかしなことを、実際に被害者になり遺族になって、毎朝の地獄がはじまってから、もう一度自分の意見を言うがいいーー。」

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