百八四 映像 (銭谷警部補)
バーで動画を見れるようになったのは少し驚きだった。
石原の送ってきた動画には、日比谷線の朝の映像がいくつかあった。
わたしがメッセージで
(見れそうだ。)
と送ったところ、石原は深夜にも関わらずメッセージを重ねてくれた。
(ファイル名はfileattached003とfileattached008です。同じ人物がいるように見えます。)
わたしは、そのメッセージを少しみてから、二つの動画を見比べた。本当だった。風情は変わっているが、わたしの知らない、しかしおそらく同じ人物だと思われる人間がいた。ただ、太刀川とは距離を置いていて、遠近のピントが合っていないせいで明確に顔までがわからなかった。背格好が同一の人物と仮定しても問題はないだろう。だが確信を得るにはもう少しサンプルが必要だ。
(なるほど、同一人物に見えなくはない。)
(はい。ですが、この程度ではと思いますので、明日も動いてみたいと思っています。)
(寝る間を惜しんで、申し訳ない。)
(大丈夫です。体力には自信があります。)
(明日も早い。ゆっくり休んでくれ。)
(了解しました。)
メッセージを終えたわたしは石原への感謝を心に集めてバーボングラスを掴んで氷を揺らした。そのまま動画を幾度か見直していた。こうやって撮影をすると確かに自分のが日常獲れる何倍もの情報量を把握ができる。そうして幾度も再生して見ることもできる。わたしは純粋な気持ちでやはり石原に感謝した。
そんなふうに最初の動画、つまり今日の朝の日比谷線の動画をもう幾度となく眺めていたその時だった。
石原が二つの動画で比べさせた人物とはまた別のとある男が、目に入った。その男には明らかに太刀川を狙って撮影したせいでレンズの焦点があっていなかった。ぼやけていた。しかしその男が目に入った瞬間わたしは心に津波が押し寄せるようにすべての精神的な状況を押し流されていくのがわかった。
その男は太刀川の乗る地下鉄車両の一番奥の扉近くにいた。地下鉄の出入り扉の、扉袋に立っている。焦点が太刀川に合わせてあるため、細長い車両の手前と奥とでぼやけていて、表情は確認ができないが、カメラの側に背中を向けて立っていた。ただその背中はわたしの知っている背中に非常によく似ていたーー。
バーのカウンターに板電話(スマホ)を顕微鏡でも覗くように目に擦り付けたわたしは、幾度も幾度もその映像を再生し直した。
髪型や服装はちがうが、奴の二メートル近い身長は、誤魔化せたりはしないーー。