百七七 若洲 (御園生探偵)
金門橋(ゴールデンゲートブリッジ)を渡ったところに巨大な風車があった。羽田側から登ったブリッジで海を渡り、浦安や新木場のある、東京湾の千葉に近い側に降りていくようだった。橋を渡った先も、いかにも埋立地じみた平らかな黒い板洲のような土地が闇に広がっていた。工場や自動車が出す光が点綴として、そこだけ海面ではないのだと判るのだった。
江戸島を乗せたタクシーは橋を降りると幹線道路を左折した。折り悪く信号が赤になった。
往来はミキサー車や、トラックが多く、橋の上から眺めたときよりも広大に思える敷地に巨大な工場が遠く並んでいた。その闇へと目的のタクシーが吸い込まれていく。
「信号を無視して、追えませんか。困ったな」
「無茶言っちゃいけねえよ。」
信号に間に合わなかった我々を置いてタクシーは埋立地の工場の方角へ入って見えなくなっていった。
ふと僕は、昨夜の銀座の寿司店の後を思い出した。代々木上原という、渋谷や原宿の先の内陸側に自宅がありながら、江戸島会長は銀座から海の方角、つまり埋立地側に向かった。もしかすると昨夜もここに向かいたかったのではないか?
(方角という意味では合っている)
信号がようやく変わると、急加速をさせて我々は江戸島の車(タクシー)を追った。しかし、かなり急いで回ったが江戸島を乗せたタクシーは見当たらなかった。
タクシー運転手は、申し訳無さそうに謝った。僕が想像以上に落ち込んでいるのを気遣ってくれた。
しばらく探したあとに、僕は軽井澤さんにメッセージをした。声を出して、電話をする気になれなかった。
(すいません、見失いました。)
チャットはすぐ既読になった。
(一人では難しいです。御園生くん、しょうがないですよ。)
軽井澤さんのねぎらいの言葉だった。
(しかし。貴重な好機でした。)
(いまどちらですか)
(いま若洲というところにいます。)
その言葉が既読になったあと、随分長く返信がなかった。軽井澤さんは僕の送ったいくつかの、写メをみている様だった。
暗闇がうっすらと月夜のように明るいのは、東京湾の向こう側のまさしく大都会の夜の灯が間接的に埋立地を照らすからだった。工場の高い建物と、ミキサー車の並ぶ広大な駐車場が、闇に暗く広がっている。なんの工場かわからなかったが、とにかく、人間の存在を感じない、全て機械が自動作業だけする場所のようだった。大都市のさまざまな物事を処理し、ただ冷たく動く印象は、どこか尾行してきたものを見失った気持ちと重なるようだった。
海風が、人のいない平らなアスファルトの上をなでていた。