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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 178 章 百七五 バーへ (銭谷警部補)

百七五 バーへ (銭谷警部補)

 綾瀬の河川敷で又兵衛と別れたあと、わたしは気がつくと金町とは反対の方角の電車に乗っていた。
 霞ヶ関を通り抜け、乃木坂で千代田線をおりると西麻布から広尾方面へと夜風に吹かれながら、歩いた。景気は相変わらず悪く、空っぽの品川行き(バス)が赤い終電灯を揺らして外苑西どおりを疾走していった。行き詰まった捜査の考え事をして幾度も歩いた道だ。わたしは何か閃きが夜空から舞い降りるのを願ったが、夜はいつものままだった。そうして天現寺まで歩き、バー・ニコルソンに入った。
 客は誰もいなかった。
 わたしはカウンターに座って、隣の空席を改めて眺めた。
 その席は金石のいた席だった。
 ここに座る目的は簡単だ。
 あの時と同じ気持ちになって、同じ酒を飲む。そうして又兵衛の話した太刀川龍一周辺の言葉をなぞる。そうすれば、もしかすると金石がその席で語っていたことを、思い出すかもしれない。忘却してすぎてしまった会話を同じように酒を飲むことで、思い出せるのではないかーー。
 気狂いじみた発想だったがいまのわたしにはそれ以外に方法が思いつかなかった。
 おそらくそれにはずいぶんな量のジャックダニエルが必要な筈だった。
 隣の金石のいた席をわたしは無言で見つめた。

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