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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 155 章 百五二 大阪と福岡(御園生探偵)

百五二 大阪と福岡(御園生探偵)

 守谷保  本名 昭和二十五年三月十五日出生
 大阪府東大阪市いろは番地に号
 風間正男 本名 昭和三十三年十月五日出生
 福岡県久留米市にほへ番地と号
 僕がテレビ会議室に入ると、既にこの文字列が画面に映し出されていた。
 米田さんが画面に既にいて、少し遅れて、軽井澤さんが入った。
「さっそくですが。ご依頼の二人のものです。」
 米田さんが言った。じっと文字面を見ながら、軽井澤さんが
「本人に間違いはないということですかね。」
「説明すると長くなりますが、まあそうですね。」
 米田さんはそう言い切ったが、いきなり戸籍と言うのがよく分からず、僕は少し微妙な表情をした。そもそも軽井澤さんがいつのまにか米田さんに戸籍調査を頼んでいたのも知らなかったのだが。
「私は風間にも守谷にも会ったことはないのですが、奴らがこんな三十代ということはあり得ますか?」
 と、米田さんは突然若い守谷のような空気とは程遠い写真を出して聞いた。
「それはないですね。申し上げた通り、五十歳前後だと思います。風間も守谷も。」
 軽井澤さんが答えた。
「日本全国に風間正男は、二名。守谷保は三名いました。」
 米田さんが言った。
「そんなものですか。」
 僕は思わずつぶやいた。
「ええ。風間の苗字で二千人くらい、守谷でも同じくらいです。下の名前まで含めると、こんなものです。完全な同姓同名は意外と少ないです。鈴木とか、太郎とかであれば別ですが。風間正男は、三十代が一名と、六十五歳がひとり。守谷保も二名のうち一名は二十代でした。この世代の若者はネット上に顔写真をあげるようですね。」
 そう言って米田さんは、ネット上の風間正男と守谷保を名乗る、双方の顔写真をもう一度見せた。どちらも見覚えのない人間の顔だった。僕は、守谷しか会ったことはないが、はっきりと違った。風間の方も、軽井澤さんは全く別人、と言う表情だった。そもそも若い二人は、元気で快活な写真で、ブログを書いているような社交的な陽気さにあふれていた。私刑や猫の死体の印象とは違っていた。
「お話を聞いている限り、風間も守谷もスネに傷のある様子ですからね。ちょっとちがうかなと。そうすると、この二人しかないかなと。」
 守谷保  本名 昭和二十五年三月十五日出生
 大阪府東大阪市いろは番地に号
 風間正男 本名 昭和三十三年十月五日出生
 福岡県久留米市にほへ番地と号
「ううむ」
「可能性がある戸籍が、日本国全部で、この二人だけ、になります。」
「大阪と、久留米ですか。」
 僕は米田さんと軽井澤さんの会話に、質問を投げかけた。要するに風間と守谷の戸籍を少し微妙なやり方で調べたと言うことだろうか。僕がレイナさんに微妙な話を頼んだのと同じ種類の事かも知れない。米田さんは色々と役所界隈でのルートがある。
「やはり同郷というわけではない、ということですかね。」
 僕がそういうと、米田さんは、
「戸籍からだけでなく、この大阪と久留米の人間の経歴も出せるみたいなので、そちらも、後ほど出そうと思えば、だせます。」
「なるほど。」
「が、まあ、そちらは調べなくてもいいかもしれません。」
 米田さんは切り捨てるように言った。
「調べなくてもいいとはどういうことですか?」
 僕は、少し気になった。軽井澤さんは黙ったままだった。
「つまり、その、この二人とも年齢が合わない気がするんです。六十八歳と七十五歳ですから。」
 米田さんは呟いた。
 よくわからない混乱が訪れた。がしかしある納得が、後から腑に落ちた感じも、すぐにもやってきた。ちょうど僕も腑に落ちたころに
「やはり、元々、名前自体が偽物でした、ということですか。」
 軽井澤さんは静かに、唸るように言った。
「まあ、そうでしょうね。それが納得しやすい。彼らが見た目は五十くらいであれば。」
 米田さんは画面の向こうでそう言った。
「おそらく、どんなに頑張ってみても六十には届かないと思います。」
 しばらく三人は沈黙になった。
 僕らの前に現れた二人の人間は風間と守谷と名乗った。
 しかしその戸籍を調べると、年齢が違う別の経歴が出てきたのだ。
 そんな事があるはずはない、ではないか。
 僕が、そういう顔をしていると、軽井澤と米田さんの二人はテレビ電話の画面上で、少し思い当たるような表情をした。
 僕は、それが何を意味するか、わからなかった。なんとなく二人の間に符丁があるような気がして、質問などを出来ずのままだった。

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