百四七 夢の終り(レイナ)
真っ赤なテーブルは血塗れだった。
白いテーブルが白かったことを思い出せない。銀色の什器や真っ白なお皿の背景が赤くなった。
そこにいた軽井澤さんや、御園生くんが既にいなかった。血はみるみる広がる。自分の手首から流れていく。
そうおもってふと自分の体を見る。
手首から血は出ていない。
そのかわりに、もう一人テーブルでうつ伏せている人間の後頭部がある。
それは母だった。血は母の血液だった。
死んでいる母だった。
母の写真を見たことがないけども、脳天のつむじでそれは母だとなぜかわかった。
誰にも言ったことのない、いつもの会話が始まる。
本当はあたしは殺していない。
そんな記憶ないもの。
好きじゃなかったけど、憎んでもいなかった。
事実と現実はちがいます。
あたしは殺していない。
凶器を持っていただけ。
散々言ったじゃないか。
あたしは覚えているんだって。
何もかも忘れてなんかいない。
だから、記憶にないんだって。
衝撃で忘れたりなんかしないから。
そう言ってるでしょう。
それなのに。
もう判決を出したんでしょう。
それを変える気もないし、変更できないんでしょう?
それは節子さんにもいったことがない言葉だった。
脳の中で繰り返す、あたし、の会話だった。
自分一人の会話。
その会話がはじまると、自分は最悪になるとレイナは知っている。心が乱れて、終わりのない場所に向かっていく。
「でも大丈夫。」
節子さんが言葉を始める。
節子さんが手を握るのがわかった。
「大丈夫だから。」
レイナは反論する。
「大丈夫なんかじゃない。あたしを更生なんかさせずに、殺してくれればよかったじゃないか?あたしが世の中に戻る意味なんて、どこにあるの?」
目の前は血の海が立体的に波打っている。
赤い海で自分が窒息する。
でも手を繋ごうとする、節子さんの手がある。
掌の温もり。それでも、人間は孤独だという言葉。
節子さんがまだいる。
びっくりするくらい、怒っている。
「約束したでしょう。
才能を前向きに使うって。」
「玲奈さん。
あなたは才能があるって。
約束したでしょう?」