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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 144 章 百四一 顔面  (人物不詳 村雨浩之)

百四一 顔面  (人物不詳 村雨浩之)

 そのとき、部屋の奥の袋が、少し動いた。
 とある人間ーー風間を昨日、気絶させて入れただけの袋である。
 よく見ると縛っておいたはずの入り口が開いてしまっていた。
 袋が口を開けている。
 結果、袋の中に入れていた風間が少しずつ、顔を出したのである。口にはガムテープをしてあるが、目は閉じていなかった。風間の眼が驚きを隠せない表情で、闇夜の猫のように瞳孔を広げて、男を見た。
 風間のその表情は驚愕していた。
 自分を拉致して監禁した男が誰かを、風間は知ってしまったのだ。
「……。」
 ガムテープを口に噛んだ風間は言葉を発することはできないまま顔面が恐ろしく見開いた目だけになっていた。
 しばらく沈黙が再び流れた。
 今まさにーー。
 今まさに、この暗い部屋の男の結論がそこで定まったと言っていい。男は今起きた現実というものに対峙していた。つまるところ奴はーー風間はこの自分の画面を見てしまったのである。奴はそこにある生生とした現実を、消すことのできない事実として知ってしまったのである。
 男はゆっくりと風間に向けて、
「今、おまえは、この私という人間の、行く末をまさに決めたようだな。ははは。馬鹿な男だ。眠り続けておけばよかったものを。もしくは目を閉じておけばよかったのだ。」
 風間は首を振った。自分には悪意はないから、許してほしいという様子だった。しかし例え悪意がなくとも、見て知ってしまった事実は消すことはできない。
「なるほど。」
「……。」
「こういう結末が良かったのかもしれないな。本来お前をどうするかについては、いくつか選択肢があったのだ。しかし、自ら自分の運命を決めたのだから。」
「……。」
「私はこの一日まあまあ考えたのだよ。その中で結論をどうするか本当は悩んでいた。しかしお前がこうやって見てしまったという現実のおかげで、どうやら正解がはっきりとしたようだーー。」
 そう言って男は、再び旧式のパソコンに向かい、そこに風間がいることも忘れて、もう一度、全体の計画を緻密に記載し直した。ネットに繋がっていないそのパソコンに再び夢中になって設計を記載していく。密室の周辺のアイデアが追加でいくつも出てきた。
 男は自分の中で決断した新しい作戦を文章にして確認を幾度も繰り返した。
 下見した場所も含め、いくつかの準備は盤石にしつつある。
 集中は再び一時間は続いた。

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