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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 143 章 百四十 上原  (御園生探偵)

百四十 上原  (御園生探偵)

 赤ら顔になった江戸島と会食相手とが寿司店から出てきたのは三時間後の二十一時前だった。寿司屋の大将らしき人物が深々と頭を下げていた。
 店の出入り口の一つしかない寿司店だから僕ははっきりと彼が出てくるところを見ることができた。他の人たちを残して自分は先に帰るという様子で、会長ともなるとそう言うものかと思った。
 待っている間に江戸島のことを幾つか調べた。秋田の出身で、有名私大を出ていた。新卒でX重工業に就職していた。数年前に夫人を亡くして子供もいないらしい。なので一人暮らしなのかも知れない。であれば二軒目位には行くものと思っていた僕は、直ぐに銀座を去る江戸島の車に拍子抜けた。役員車はこちらの尾行なども気にせずに晴海通りに出て、湾岸方面に向かった。まだ九時前だったが、七十近い経営者はそういうものなのだろうか。
 ここで少しおかしいことが起こった。
 最初、車は銀座から晴海方面に向かった。つまり山の手ではなく湾岸へと向かった。勝鬨橋を渡り、有明方面へと走った役員車は、なぜか、豊洲の辺りで突然Uターンをしたのである。それはマラソンの折り返し地点のような交差点での折り返しだった。そしてそのまま今度は晴海通りを元々来た銀座に戻り直した。いや正確に言えば銀座もそのまま抜けて今度は皇居前を通り過ぎ、最高裁判所の角から青山通りに入った。そうしてしばらく走ってそのまま外苑を抜け、表参道を右折した。
 代々木上原の高級住宅街にある一軒家の前に役員車は停まった。江戸島が中に消え、役員車も帰った後に見てみると、表札には江戸島と書いてあった。
 僕は、少し奇妙に思った。
 銀座で会食して代々木上原の自宅に戻るのになぜ一度、わざわざ真逆方向の豊洲まで向かったのだろうか。

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