← 目次へ
星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
第141章をXでシェア
第 141 章 百三八 新木場再 (赤髪女)

百三八 新木場再 (赤髪女)

 赤髪女は昨日と同じ新木場駅についた。
 駅を降り、同じように南に向かう。海の方まで歩く。
 夕方だが人がほとんど歩いてはいない。都心では見ない大きさの倉庫や工場が続き、駐車場のようなだだっ広い敷地にトラックやミキサー車などが並ぶ。
 生活の臭いのない場所だった。街というには不適切なくらいに人がいない。所々ある緑さえ作り物のように感じる。
 寂しい場所だな、と赤髪女は思った。
 こんな場所に指示者は毎日現金を持って行けというのである。
 二十分程歩き、昨日自分が現金入りの封筒を貼った電信柱にたどりついた。
 赤髪女は昨日の電信柱を見て少し鳥肌が立った。
 昨日の封筒はガムテープごと剥がされていた。
 三万円入りの封筒が消えている。
 (あの無愛想な電話の男が取ったということか。)
 つまり、指示者の思惑の通り、間違いなくここにその男が来て意味不明の封筒を夜の闇の中で拾って帰ったのだ。
 赤髪女は昨日と同じように、用意した封筒を電信柱に貼り付け、昨日と同じようにその男に電話をかけた。こちらの番号は非通知にしてある。
「もしもし。」
「オザキさまですか?」
「はい。」
「昨日の場所から、電信柱一本分、海側の場所に、ご依頼のお届け物を貼り付けさせていただきました。必ず日没後に、お引き取りください。」
「…わかった。」
 男は無愛想ながら素直な声で応じた。現金を得ることで何か手順されたような声の印象の違いがあった。
 そうして電話を切ったときだった。
 夕焼けを始める西側の岸壁の方角に人影が見えた気がした。封筒を貼っている時には気が付かなかったが、電話をかけて切る時にふと視界に今までなかった人間の気配があったのだ。視力には自信がある。影は何故かこちらを意識していたように感じた。赤髪女が電話を切った時に、同じように携帯の電話を切ったようにも見え、そのままミキサー車やトラックに隠れるようにして視界から消えていった。オザキという男がまさか既にこの近くまで来て赤髪女の一連の動きを見ているということではないだろうかーー。
 赤髪女は漠とした恐怖が自分を襲うのを感じた。
 あたりに人影は何もない。もし襲われれば何も抵抗できない。自分には護身の術もない。万が一逆に尾行されれば、持ち金全部奪われる可能性もある。背筋が震えるのを隠しながら、赤髪女は急いでその場を去った。

文字
明暗
組方向