百三六 違和感 (赤髪女)
違和感がある。
そんなことをあまり考えるとよくないと、赤髪女は自分に言い聞かせているのだが、違和感は拭えない。社長さんは、この仕事は昭和の昔からずっとある伝統的で安全な仕事だと言っていた。実際に八年ものあいだ、安定的に生活費を与えてくれたのはこの仕事だった。
今、そういう安定感は感じない。すくなくとも電話でヘリウムの声で細かい指示をしてくる男は、今までの風情と合わない。やはりこれまでとは、仕事の仕方が違う。
そもそも、命令の変更などこの八年間で一度もなかった。
今回の指示者はずいぶんと、長い説明をしがちだ。
これまでの仕事は、何を目的とした作業なのかもほとんどわからないまま、その断片だけを処理をしてきた。
「ものを拾い、どこかに落とす。」
ほとんどそういう仕事だった。誰が何のためにするのか?など何もわからない。赤髪女が参加してきたのは部分でしかない。作業の全容など想像もできなかった。
しかし今回は想像ができてしまう。
最初、風間という男を監視した。
執拗に嫌がらせをするのが仕事だと、すぐに理解できた。
しかし風間が探偵に泣きつくと、今度はその探偵を調べることになった。
そういう変更は、これまでになかった。
全体の方針を見直したのが、赤髪女にもわかる。
更にその後、なぜか風間の追跡を辞めた。風間もGPSから消えてしまった。その代わりに埋立地に金を届ける作業が始まる。
違和感が赤髪女に続いている。
これまで、一切指示者が自分に人格を見せることはなかったが、今は違う。そもそも電話でヘリウムの声とは言え会話があるのだ。地下鉄の路線を細かく指示したりする。この仕事でいくら追加だとか、金額を増やすとか、金をどう使うかにもこだわりがある。そうだ。指示者は金の力を熟知している、と赤髪女は、感じる。金が足りなくなるとなぜ人間が働くのか。そのことを熟知していて、だから赤髪女にも適宜支払う金を工夫してくる。探偵の仕事を増やすならこの金だ、風間を辞めるからこうだ、というような。
経営の感覚なのだろうか。
赤髪女は指示者の指示通り、有楽町線に乗っていた。夕方までにまた仕事をしなければならない。封筒に入れた金を電信柱に貼り付けるという、仕事とは呼べない簡単なものだが、昨日と同じく、湾岸の埋め立て地までいかねばならなかった。