百三四 暗室 (人物不祥 村雨浩之)
暗い部屋。
電話を切ると、男は、見境なく物を投げつけた。
「ふざけるな。」
ヘリウムのままの声が響く。電話が終わっても、声はそのままだった。
「探偵ごときが。」
音も光も漏れぬ暗い一室であるせいで、歯止めが効いていない。興奮した男は、
「なぜたどり着く?いったいどうやった?」
当たり散らして投げた何かが、締め切った暗い部屋の窓にあたった。ガラスに稲妻の割れ目が走った。男は冷静になれなかった。しばらく類似した放擲を続けた。室内には机と椅子と古めかしいパソコン、それと昨日の朝に持ち込んだ人間の入った布袋があるばかりで、物を投げるために硬い床にゴツゴツという音を立てた。
数分間、怒りに任せて物を投げていた。
ただ体が疲れてしまうと爆発した感情はゆっくりと落ち着き、男の精神は、もとの正常な状態に近づいた。
男は、椅子に深く座りながら、考えてみた。
もはや、事実がそうなっているということだ。
ということは、この事実に対処せねばならない。プランAどころかプランBでもなく次のことを考えなければならない。
事実として、探偵があの二人に関連し、江戸島へと向かったということだ。つまりーー。この自分に何らかのリスクが向かっているということに間違いがない。とすれば、Documentに書いた着地想定は全く別のものにせねばなるまい。
事実として、風間や守谷についての自分の読みが甘かったということでもある。探偵を雇っておかしな動きをするのは想定外ではあった。
そして、その探偵の動きも想定外だ。
男は一時間くらい無言になった。
無言で、メモも取らず、キーボードにも触らず、旧式のパソコンを見つめ続けた。