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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 129 章 百二十六 二重橋 (石原里見巡査)

百二十六 二重橋 (石原里見巡査)

 石原里美巡査は、大手町の三菱通の路地裏のベンチに座った。周囲を少しだけ気にして視線のないのを確認してから、つけ髭を取り、帽子をカバンに入れ直した。朝から優雅な丸の内のカフェに入る気にはならなかった。
 今朝少し前に太刀川は二重橋駅で地下鉄を降りた。乗り換えるのではなく、地上に上がった。出口のすぐ上のオフィスビルに入って行った。ビルの名前はすぐに分かった。X重工株式会社と言えば、日本有数の大企業である。大手町に巨大な赤煉瓦の自社ビルをかかえている。今日は夕方からではなく早い時間から人に会うようだった。
 石原は、さすがにオフィスビルの中までは追えず大手町の道端で一人になったのである。
 しかし、石原はむしろ少し前向きな興奮の中にいた。
 今朝の地下鉄で初めて撮影カメラを回し、太刀川の朝を映像にすることに成功していたのだ。
 太刀川に絶対に気がつかれないため多くの工夫をしている。石原は撮影中一才、視線も体の向きも変えない。隣の車両の席に座り、太刀川の方角でなく、目の前のスマホを見る。膝の上に置く鞄の脇腹に穴をあけ中に小型カメラを仕込んである。小さな穴からカメラで撮影導線した映像の太刀川をスマホの画面で見るのである。つまり石原は、中年男性が携帯ゲームをやっている姿で、太刀川のいる車両を細かく盗撮しているのである。まるでスマホゲームに熱中するように画面を見つめているだけだから誰も気づきようがない。
 撮影できた情報には、単純な目視の尾行よりも余程情報が多い。画像には、太刀川の二重橋までの姿が自分の目で見るより余程正確に記録され、それを事後に、幾度も見直すことができるだろう。実際に人間が見て生で把握する数十倍の情報量があると感じる。石原は自分が幾度も太刀川の映像を見直せることに興奮した。たとえば、太刀川の視線や目を合わせた人物など、これまで自分の目の前で消えていった情報も、撮影した映像を解析する中で、見えてくるかもしれない。
 石原は率直に、この映像を早く銭谷に見せたいと思った。

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