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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 123 章 百二十  朝の電話(御園生探偵)

百二十  朝の電話(御園生探偵)

 レイナさんのメッセージを僕は軽井澤さんに転送した。すると、夜明けを待たずに返信があった。
 軽井澤さんは眠れていないのだと思った。
「ありがとうございます。わたくしが不甲斐ないばかりに、お気を使わせてしまいましたね。なるほど、昨夜レイナさんにそのようなお願いをしてもらっていたのですね。わたくしが手が回らず、打合せにも出れず、ごめんなさい。もしよければ今すぐ話せますか?」
 テレビ電話を早々に繋げると、軽井澤さんと僕は形だけ、おはようございます、と挨拶した。僕の方で、画面にレイナさんのテキストファイルを映し出した。
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 軽井澤
 御園生
「ありがとうございます。いろいろ作業を気遣ってもらって。御園生くん、いくつか質問して良いでしょうか?」
「はい、もちろんです。」
「保護司というのはなんですかね。」
「保護司ですね、これは調べてみたんですが、ボランティアの一つみたいですね。」
「ボランティア?慈善か何かですか」
「ええ。更生に関係する仕事みたいです。固有名詞、ということではないかもしれないですね。」
「更生というのは、犯罪者などの社会復帰に関する仕事ということですか。」
「はい。例えば、刑務所を出た人の就職雇用などをケアしたりするようです。まあ風間と守谷の印象からして刑務所くらい出ていた気もするのでそこで共通したのかもしれません。」
「なるほど。」
 ぼくが保護司を詳しく説明できたのは、他に調べるような言葉がなかったからだ。本来はこの検索結果で、地元の学校名とか具体的な人物名などが、重複が生じる予定だった。しかし、そんな明確な「世田谷小学校」みたいな言葉はそこになかった。
 軽井澤さんは、それでも気にせずに、ああでもないこうでもないと言いながら単語をひとつひとつ見てコメントをしていった。我々の名前以外で唯一に固有名詞に近い、江戸島という言葉にたどり着いた時に、
「江戸島というのはもしかして、地名だったりしませんかね?」
 と言った。
 実はこれも違う。それもすでに下調べをしてある。江戸島は土地名だったり学校の名前の可能性も感じるのだが違った。幾度調べても江戸川橋や、江ノ島、という地名はあるけども、江戸島という地名はなかった。
 すこし珍しい人名だった。
「人の名前なのですか。二人の共通する人の名前だとすると面白いですね。それは気になりませんか?」
「はい。もしかすると、と思い、一応それは調べました。」
 僕は淡々とそのことについて説明した。全てのWEBページ、SNSアカウントを江戸島、edoshimaなどで検索して見回したことや、そういう判りやすいアカウントはなかったこと、唯一ネット検索で出てくる人物があったことなどを説明した。
「唯一ネット検索で出てくる。それは、どんな人物ですか?」
「SNSのアカウントなどではないんです。」
「個人アカウントではない。」
「はい。そうです。」
「どういうことだろう。」
「いくつかの経済新聞などの記事で、名前が出るんです。」
「経済新聞?」
「はい。」
 僕は、そう言ってチャットの方にテキストを送った。
 X重工株式会社、代表取締役会長 江戸島昭二郎
 経済団体連合会 理事
「つまり、江戸島で、引っかかるのは、この人間だけです。」
 僕はリンクでそういう過去のニュースを置きながら説明した。ニュースというよりX重工という会社のホームページや人事だった。それだけで十分に経済ニュースになるのだった。
「X重工の会長というか、経団連の役職者のひとですね。」
 軽井澤さんはそう言った。
「お知り合いですか?」
「いえいえ。ただ、財界に名前の出る人物で名前だけ聞いたことがあるくらいです。」
「なるほど。江戸島、ということで言うと、かなり探しましたが、この人物しか出てこないですね。なので、この線も、ないのかなと思ってしまいました。」
「なるほど。」
「東証一部上場のX重工の会長と、風間や守谷が付き合いがあるように思えないなと。」
 僕がそういうと、軽井澤さんは珍しく反論的に、
「そうですか。わたくしは少し気になるのですが。」
「ほんとうですか?」
「いや、勿論、全く普通はつながらない気はしてるのですが、逆に異質なのが気になるんです。」
「……。」
「そもそも、江戸島という経済界の重鎮の名前を、あの二人が共通にわざわざネットで時を同じく検索をしたのは、考えてみるとおかしい気がするのです。あの風間が、上場企業の役員の名前を調べますかね?」
 僕はてっきり軽井澤さんが、他に取り付く島がないので無理にこの江戸島を掘り下げているのかと思ったが、意外とそうでもないらしかった。むしろ前向きに気になっているのだ。偶然、同じ言葉を検索する、それも、自然な言葉ではなく、普段日常使わない言葉を共通に検索窓に入力するーー。軽井澤さんは、その違和感を指摘して少し独り言のように呟いていた。ただ残念ながら、それ以上の事は思いつかなかった。朝早いのもあり、一旦電話を切ってお互い考えをまとめて、事務所で会おうとなった。
 二度寝をするにも勿体ない快晴だった。
 僕は事務所に向かうことにした。なんだか家にいるのが落ち着かなかった。それは、どこかで愛想のないレイナさんからのメールが関係もしていたのだが。ところが家を出て駅まで向かっているときに、ブン、と携帯が鳴った。
 軽井澤さんからのチャットだった。
 曰く、どういうやり方なのかわからないが、早速この江戸島と言う東証一部上場の大企業の会長室に電話をして、面会を取り付けた、というのだ。時計を見ると、まだ朝の七時をまわったところである。二段階も、三段階も早いその軽井澤さんの手順に私は少し驚きながら
「本当ですか?なぜ、そんなことが可能なのですか?」
 僕はそうチャットで返したけれども返信は無く、しばらくして折り返しに電話が鳴った。
「わたくしも、無視されると思ったのですが、意外なことに時間をすぐに取ると言うのです。随分、開放的な会長ですね。」
 僕は、軽井澤さんの前職が報道記者だったのを思い出した。この辺のフットワークの良さは、もしかしたら軽井澤さんのそういう前職の影響なのかもしれない。長閑なようで突然疾走する。ここぞというときに突然急激になるのだ。
 普通、大企業の受付に朝の六時に電話はしないと思う。大企業の朝は早いのか、軽井澤さんがどういう言い方をしたのかは知らないが、六時台の電話申し込みで、約束は今日の朝八時らしい。
「御園生さん、会長自らが、わざわざ会ってくれるらしいです。八時十分前に、二重橋来れますか?大手町の皇居の近くの二重橋の、X重工ビルです...

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