百十七 回想 (赤髪女)
あの時ーー。
元々の仕事に何か不満があったわけではない。強いて言うなら少しだけ暇だった。ちょうど恋もしていなかったから。だから、少しだけの気の迷いで、アイドルの頃やっていた覚醒剤が復活した。
父親も母親もアイドルをやめてしまったわたしには興味を失っていた、と思う。新しい次の家族や子供ができてそっちに向かっていった。そもそも、自分ももう誰が見ても可愛がる子供の時代は過ぎて、めんどうな大人になっていった。そもそも親のいない寂しさは薄れていった。別にもう、親はどうでもいい、と思った。でも、覚醒剤を復活させてしまったのは、親からの連絡が途絶えた頃だったーー。
酩酊の中でいろいろな裏の検索をしたと思う。
インターネットには表と裏がある。赤髪女はVPNが流行り出す前、覚醒剤を手に入れるためにその界隈に詳しくなっていた。表ではできない取引をする裏のインターネット。接続の仕方が違うインターネット。ネットが自分を認識していないせいで、出てくる広告も違っている。男物の精力剤とか、老人モノの広告とか、を自分に当ててくる異世界。
そこには様々な「仕事」が溢れていた。
符丁のような言葉が並ぶ。ヤーバー、ホワイト、スノウ、チョコ、
名前は毎年変わっていく。
やり方も。
あの時はまだ、裏のネットに対して警察が手薄だったのかもしれない。比較的大胆に、値段と、連絡手段などを設定していた。VPNっていうサーバーは、自分の情報を抜かれないという話を聞いて、それが少し密室的な喜びになって、いろいろ酩酊の中でやったと思う。今はその頃のことは思い出せないし、そもそもそんなサイトは常に生まれては消えていく。正直幻だったのかもしれない、とさえ思う。
ただ、その場所には覚醒剤以外のさまざまな違法仕事をする人間が沢山いたのだと思う。
そうかーー。
多分、そういう場所で、いまの指示者のような人間が自分を見つけたのかもしれない、と赤髪女は思った。