百十六 クロール (レイナ)
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風間と守谷の検索していた言葉は平凡な言葉ばかりだった。
検索の窓に打ち込む言葉は或る意味残酷なまでに人間というものを浮き彫りにしている。生活や日常のなかにある、退屈さ、虚しさ、欲望、憂鬱、不誠実、嘘、不貞のような人間が日常、外側に見せないようなものが、堂々と混ざってくる。検索語句を見るというのは、レイナにはほとんどその人物の秘密を見ているようにさえ思えた。
風間と守谷の検索語句で重複するものがゆっくりと、並び始めている。セキュリティに対して慎重にしているせいで、一つ一つの言葉が落ちてくるのに時間がかかった。Googleのアクセスは一秒間にある一定数を超えると警告が入るのである。
御園生君が期待していたような、小学校や地元の固有名詞はまだ現れなかった。
普通の重複は、買いたいもの、食べたいもの、移動したい場所、そういう日常の検索ばかりが出てくる。だからこそ不自然な固有名詞があれば重要な手がかりになるだろうという御園生君の期待は正しい。「ひばりが丘小学校」と一人が偶然検索することはあるかもしれない。しかし二人の中年男が検索したとなると、それは出身校か双方に深く関係のある過去の何かである可能性が高くなる。
しかし、重複の個数はレイナが想像していたより少なかった。
今のところ、重複として呈示される言葉もまだ一般的で典型的な検索語句がほとんどだった。
レイナは海を眺めた。夜の海は、暗黒が唸るだけで、ドブ臭い潮騒を続けていた。東京湾は人間がいる場所の光に囲まれて、空の星は殆ど感じられなかった。
今日、軽井澤さんと会った。
そこで、佐島を借りて自分の意見を言った。
軽井澤さん、あなたは手を引くべきだ、と。
しかし軽井澤さんは何か、複雑な自分自身の過去のことを事由にしてもう少し待ってほしいと話した。その先で、少し不思議なことを言った。それは、
「最悪の状態に行きたくない」
という言葉だった。
最悪の状態とはなんのことだろう。レイナには今一つ理解が及ばなかった。
トレーラーの運転席で、火をつけたタバコも吸い込むのを忘れていた。燃えかすが指に落ちた。
その時、Macが光ったーー。
レイナは辛うじて仕事の脳細胞に戻り、断続的に続く自分の言葉や妄念を無理やり止めた。そうして、プログラムがGoogleの隙間を縫って調べている検索語句の重複の最新を見つめ直した。
そこに、とある言葉が混ざっていた。
その三文字は、すこし残酷に彼女の脳内に刺激を落とした。
風間と守谷が共通に検索していた固有名詞のなかに、何故か関係のないはずの言葉があった。
レイナはその見覚えのある三文字を確認した。
「江戸島ーー。」