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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 116 章 百十三 会議後 (レイナ)

百十三 会議後 (レイナ)

 男物のスーツや下着はトレーラーの床に投げ捨てられたままだった。
 レイナは全裸のまま、次の服を着るのも忘れてMacに向かっていた。
 風間と守谷二人の、検索語句の共有点が少しずつデータベースに現れていった。それらは三分か五分に一度くらい、Macに文字が落ちた。
 静かな夜だ、とレイナは思った。
 少し前のコールで御園生くんは、風間と守谷を独自に関連づける考えとして、検索語句の共通性を挙げた。アイデアとしてすばらしい、とレイナは素直に思った。
 検索する言葉は、人間の素性が出る。
 人に見せていない自分の秘密もそこには堂々と並ぶ。
 悩みも過去も物の考え方も、何かを真剣に調べれば調べるほど並ぶ。実際に、レイナも施設のパソコンで検索という言葉を知った時に、過去の自分についての質問と検索を繰り返した。それらは施設の大人には一度もしたことのないような誰にも見せたことのない生生とした本質的な質問ばかりだった。風間と守谷の検索語句に注目すべきという御園生君の指摘は、その点でも正しいアイデアだとレイナは思った。
 仕事のこういう場所が面白いと思う。
 アイデアを重ねながら、自分ではない誰かと問題を解決していく時間。自分では出てこないアイデアを取り込んで、技術(プログラミング)的な支援をレイナがする。その結果が、実際に役立ち、問題が解決するときの興奮は、仕事以外で味わうことは難しいとレイナは思う。
 (検索履歴、か。)
 御園生くん本人は気づいていないかもしれないけども、レイナの設計したWEB全体のクロールと違い、探す場所の論理をずらしている。WEBの掲示板や記載されたテキストではなく、個人の検索入力行為に着眼をずらした。アイデア・ブレストにおける、入れ替えの技術だ。平成のWEB全てを遡ることに執われていたレイナの調査に全く別の切り口を御園生くんが作ったのだ。
 検索の窓。検索窓では物事を隠さないのが人間だ。検索という製品はよくできている。他人に言えない恥ずかしい履歴だったり、忘れたい過去も、検索をするときは、誰も何も隠そうとはしない。その向こうでGoogleが凄まじい量のサーバーでデータを吸い上げていると知っていてもだ。人間は機械への自己紹介は大胆になる。
 風間と守谷は、Googleアカウントも、スマホも、全て「健全」なものを使っていた。反社会の人間が使う、追跡不可能なワンタイムではなかったのだ。ここが盲点だった。レイナからすれば最初から二人は犯罪者や組織関係の人間だという前提で物事を進めすぎていたのだ。二人のアカウントを調べ直したところ、二人とも二段階認証さえ行っていない。完全な素人の、犯罪者の意識さえない典型的なアカウントだった。そして詳しくは割愛するが、二段階認証さえ入れていないアカウントなど、レイナにとっては、セキュリティ皆無のアカウントと言っていいのである。

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