百十一 検索相談 (御園生探偵)
僕の提案で、軽井澤さんとレイナさんと三人でのzoom会議を打診した。
軽井澤さんは、明らかに行き詰まっている。僕は早くこの状況を抜け出したい一心だった。このままでは通常の業務にも影響が出てしまう。
まず、彼らが何者なのかを早く見極めたかった。相手がわかれば対処の仕方もあるし、もしうまく風間や守谷の一連と関わりを正確に断てるのであればそれはそれで軽井澤さんも喜ぶと思う。そのためのアイデアを少し考えてみたのだ。
軽井澤さんは会議には入らないままだった。直前になって
「いま、すいません、参加できなくてすいません。」
とだけメッセージが来たところで、レイナさんがZoomに参加した。
「軽井澤さんは参加できないみたいです。急にすいません。」
「いえいえ。どうされましたか?」
いつもどおり変わらない、レイナさんの竹を割るような鋭角な声が帰ってきた。
「ちょっと、いろいろ困っているのが続いてすいません、僕の方でひとつ考えてみたことがあって。」
僕は用件を言う前に、現在の状況を、改めてレイナさんに繰り返し話した。
いきなり電話がかかってきたこと。そもそも前金も含めてひどい話になったこと。新宿歌舞伎町でのこと。池尻病院であったこと。二人に共通して送付されてきた葉書。消印の日付の違い。それから、軽井澤さんが、眠れてもいなく、困っているということも話した。軽井澤さんが、僕から見て真面目すぎて、必要以上に風間や守谷の如き二人のことを無視できないと言うニュアンスを最後に足した。
「そうですね。御園生さんも大変だと思います。」
レイナさんは忙しい人なのにゆっくりと、僕の話を聞いてくれていた。
「はい。正直どこかで、早く撤収したいと思ったりもするのですが。」
「そうですね。」
「はい。」
「ただ、軽井澤さんのことだから何かあるのかも知れないですね。」
ふと、レイナさんは少し、歯切れの悪い声でそういった。そのときだけ、いつもの美しい声と少し声色が違う気がしたのは、気のせいかもしれない。
「僕は、なるべく早く、このことを解決してしまいたい一心です。ただ、風間と守谷の携帯電話の番号程度しか把握できてないのですが。何とかして、現状打開しなきゃいけないと思っていまして。うまいやり方が、あればと思っているんですが。」
僕は、声を少し低音に落とした。探偵業法的にここから先は灰色のことになるからだ。
僕が進めたかったのは、レイナさんの技術を用いて、ある程度インターネットの裏側の非合法的な手段に入ってでも彼らを調べてほしい、と言うことだった。警察にも行けない彼らを、多少よからぬ方法で調べても問題にはならないだろうし、二人が何故同じ葉書から逃げているのか、については、彼らのネット上の行動を探って、何かの繋がりさえ掴めば、一気に解決するかもしれない。たとえば、彼らのネット上の行動の中に共通事項が見つかればいい。
正直な話、多少は法を犯してでも、いまの危機的な環境を安心して排除したい。そのほうが絶対に軽井澤さんにも事務所のためにもなるはずだ。そういう考えのもと一度だけ深く深呼吸をすると、僕はある提案をそこで行った。
「レイナさん、僕は、彼らのGoogleの検索行動履歴を引っこ抜けないかと思ったんです。そこで重複被ることがあれば、風間と守谷のいまの葉書以外の関係が見えてくるのではないかと思ったんです。故郷、出身、なんでもいい。母校とか。」
「……。」
「どうですかね。」
「…これは御園生さんが自分で考えたのですか。」
「はい。」
「面白いアイデアですね。」
「ほんとうですか?」
「はい。その切り口は考えてきませんでしたから。」
「僕はなんだか、風間と守谷が過去になにか同じ場所にいた気がするのです。軽井澤さんに聞いた話や、実際に守谷と一緒にいた時間のなかで、そんな気がする。葉書の理由みたいなものも、その周辺から起因している気がして、何か繋がりを見つけたいなと思って。」
そこまで話してから僕は、法律の問題があるのを意図して、
「少しまずいですかね。」
と、問いかけた。
「いいえ、いいアイデアだと思います。調査はアイデアですから。」
レイナさんは微笑んだような声をした。
「でも、諸々大丈夫なのですかね?」
僕は法律的な意味合いで聞いた。細かい話だが、探偵というのは、警視庁や警察が発行する免許事業だったりする。違法な調査をしていると、まあまあ簡単に営業停止、となる。そしてGoogleはまあまあしっかりと、違法な行為を定義して、利用規約を書いているだろうし、当然様々な監視もしている。加えて、風間や守谷のGoogleのアカウントに入ること自体が、誰でもできる芸当ではない、と感じる。
ただ、レイナさんの技術を持ってすれば何かやり方があるのかもしれない。やり方によっては、可能なのではないか?そういう理由で、僕はずいぶん勝手で曖昧な問い掛けをしていた。
「大丈夫ですよ。信頼してるので。もしうまく行ったら、どこかで、気持ちを乗せた見積もりを作らせてもらいますから。」
「ほんとうですか。すいません。」
「いつも軽井澤さんと御園生さんにはお世話になっていますから。」
「いえ、そんな。」
「では少し、お待ちくださいませ」
竹を鳴らすような、空気をまっすぐに通す声をさせて、レイナさんは画面から退出した。
電話を切る直前に潮騒のような響きが聞こえた。