百六 空想後 (赤髪女)
田園のような光景を思い出そうとしても、思う通りにならない。
おかしい。さっきまでずっと、気分良く進んでいたのに。
自分の脳細胞が求める景色が途切れる。
少しずつヒビが入る。スマホの画面が割れるみたいに。
指がひっかかりなめらかに滑らなくなる。
やがて、寒気がやってくる。
(薬が切れてきた。)
気がつくと、お父さんは別の女の人と歩き始めた。お母さんも。別の男の人と暮らし始める。私と会う時はお父さんとお母さんは不思議な白い目の見えない御面(おめん)をするようになる。
「真美子のことは大好きだよ。」
「アイドルの仕事頑張ろうね。」
そう言っていつまでも二人とも不思議な白い御面をとってくれない。いや、もしかすると取りたいのに取れないのかもしれない。お父さんとお母さんの御面を取ってあげなきゃいけない。体に寒気が走る。脳の細胞が、不思議で不快な針金とブリキ音のコンサートを始める。昔の歌を音程を外して歌いだす。昭和の歌。なにかの、ドラマの主題歌。不安がくる。
現実に戻っていくのが怖い。せっかく、いい形で仕事も進めていたのに。早く薬を飲まないと、田んぼの夕焼けに戻れなくなってしまう。