九十九 手のひら (レイナ)
「少年Aよ。おまえのような人間は、壁の向こうに居続けるべきで、人間社会に戻ってくるな。お前に残りの人生を生きる意味なんてない。」
レイナはそのテキストを血まみれの死体でも眺めるようにしていた。
社会に戻ってこない方がいいから、あの高い壁の施設で自分は育ったのだ。
何度も節子さんと会話した「生きている意味なんてない」という苦しい方の言葉が少しだけ蘇る。
節子さんは反論した。けども、難しい反論だったと思う。だって、そんな人間がいたら嫌だもの。自分の記憶がないとかいって、記憶のないところで人を殺していたかもしれないような人間がご近所いたらどうやって暮らせばいい?そんなことにならないように、リスクがないように人は生きるべきなのに。
軽井澤さんや御園生くんと仕事をして会議をしている自分を思い返す。なんの罪もないあの人たちに、自分の過去を隠してこの世に暮らしている自分が許せない。
二人は素敵な人できっと自分とは違うーー。
自分は誰かに近づいて生きてはいけないんだ。壁の向こうにいるべき人間なのだ。
人間社会に復帰などして良いわけがないんだ。
殺人を犯して、どうして十年二十年後に世の中に戻れというのだろう。
二度と取り戻せない、命を失わせているというのに。