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星空出版 HOSHIZORA PRESS

ミステリー・連載

パラダイム

下代沢侯二
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第 226 章 十一 前略 銭谷警部補どの

十一 前略 銭谷警部補どの

 今回の事件決着、逮捕おめでとうございます。おおよその予想を裏切り、メディアも粛々とだけ報じた点が、良かったと思われます。これも警察の担当者の尽力でしょう。わたくしの言葉など何もありがたくないとは思われますが、貴殿の独特の捜査方針が成功したのでしょう。さて本日は、わたくし、以前から申し上げておりました慈善事業についてある一定の成果をえ、ここにお手紙申し上げました。川田木くんについては今回の事件で警視庁関連に照会があったと思われます。そうです。A署の又兵衛警部補が三十年以上の時間をかけ取り組んできた、女子高生コンクリート事件の重大な関係者になります。実は別の事件で襲撃され、瀕死の重傷を負った、当時の高校三年生。正確には卒業後の大学への進学を決めていた方です。東京大学理科一類、といえばわたくしの先輩にだったかもしれない人物です。残念ながら川田木さんは一般的な学生生活は送れなかったのですが。
 貴殿の仕事や警察の方針にとやかくいう気はありません。またご指摘いただいた金石氏のことも知る由もございません。まあ、金石氏が警察官を辞めどう言う状況にあるかなどを鑑みえれば、万が一仮に本当に知っていたとしても、何をどう説明するかなどは、推して知るべしでしょう。この点についての妄想は引き続きお任せしましょう。そのことより、あなたを前進させるべき私の意見として、繰り返しではございますが私は今、この慈善事業の成果をお伝えしたいのです。川田木という青年についての成果でございます。
 私はこの川田木様の置かれている状況、いわゆる植物人間と呼ばれる、臓器の移植においてさまざまな議論のあった人物のある特異な状況について、慈善的に研究を私費で行っております。慈善とは、多く、世の中で間違って解釈されておりますから明確に申し上げれば、自分のが得た資産を喜んで世の中に献じるということです。投資や節税になっているような一部のオーナー経営者のよくやる慈善とは性質は異なります。何かを得た人間が何かを社会に還元するということ、これは古来地球上で行われてきた人間の特質です。いやあえて言えば人類がかろうじてまだこの地球に君臨しておるのはそういう還元精神が重要だったのだと私はおもうのです。私はまさにいま、自分の原罪を学んでおるのです。注意を補足しますが、ここでいう罪とは貴殿が暴こうと探しております、個別の犯罪ではなく、人間元来の罪ともいうべきものです。私が毎朝、早くに起き、この街を散策するのも大方この原罪に関わる理由です。
 この文章は、実は又兵衛刑事との出会いをきっかけに本日まで作られる運びとなりました。彼はこの川田木青年の家族に唯一認められた警察関係者でもあり、また直接ではないにしろ、彼と一度お会いしていろいろ相談の場を持ったという経緯も、
 私が今回のさまざまな実験を行う初動では、大変役に立ちました。残念な誤解とはいえメディアをいくつか賑わせた私ですから、お母様初め家族の方のご協力がなければ、このようなことはできません。私が又兵衛刑事と一度お会いしているという言葉が、この事前研究に相応の効果をいただきましたことをここに強く申し上げましょう。
 我々の研究については細かいことを申し上げますまい。実際にもうこれからその成果たる文書をーー今回の事件に関わる文書についてをご用意しましたので、ぜひご高覧ください。いくつかの文書については警視庁が無断で踏み込まれました竜岡門の研究室に資料がございましたからすでに既読されているのではないでしょうか。ご覧の通り川田木青年は、不慮の事故に遭遇した人間と一見何一つ外部にコミュニケーションができないように思われてきました。しかし、立派に脳が機能している。下手をするとよほど、五体満足の人間よりも明確に言語中枢を活躍させている。この証明が確実なる成功を収めたことは、明確なものかと思われます。
 最後に、又兵衛刑事は同じように不遇の事件にあった、もしくは警察の中で何かあったやに噂されておりますが、彼がどこかで悔いていたこの川田木青年の議論において、青年と同じように又兵衛刑事自信が昏睡者となっていることは一つの象徴のように私は考えます。無論、彼にも同じようにこの成果に関することをいつか行う所存です。彼が見てきたもの、伝えようとしていたことも、どこかで私の目標する方角と類似する気がしております。こうして、わたしの行うべき仕事は、まだまだ存在するのだということを思うときに、身の引き締まるものです。もちろん、貴殿は全く別のことを私に想定して引き続き妄想され、捜査に動くのだと信じますが、それはそれ、お互いに、信じるものに邁進できることが、ありがたく生きる理由ではないかと、今日この頃思うに至ります。
 では、貴重な資料でございますが、ご送付申し上げます。
 記

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